グッバイ・ゴールデン・バディ 2

 笑い声が響いている。グレンは瞼を押し上げ、声の主たちを探す。


「それ、本当なんですか?」


 ベッド脇に、驚くジュナが見える。


「ああ、本当らしいぜ。想像すると笑えるよな」


 ジュナの向かいにコクがいた。彼は歯を見せ、おかしそうに笑う。


「い、いいだろ。僕にだって、色々と……」


 コクの隣には、アウルがいる。彼は気恥ずかしそうに、頬を紅く染めている。


 気になる。彼らは、何を面白がっているのだろう。


「なに、笑ってんだ」


 グレンは声をかけた。皆の楽しげな視線が、一斉に向く。


「聞いてくれよ、グレン。アウルな、竜舎で何度か、おまえのこと見かけてんのに、話したいけど意地張っちまったから隠れて我慢してたんだとよ」


 コクは、くっくっく、と喉の奥で笑った。アウルの顔面が、可哀想なくらい真っ赤になる。


「お、男の意地ってものが、あるじゃないか!」


 アウルは腕を組み、拗ねて、そっぽを向く。その仕草は男の意地が少しもなく、微笑ましい。そんな彼を見た全員が笑いを零していた。


「グレン、身体は、どう?」


 ジュナが覗き込んでくる。可愛らしく小首を傾げるのに、グレンは心臓が跳ね上がってしまう。身体の状態を正直に告げるなら、心拍数が危ない、だろうか。


「まあまあ、かな」


 グレンは咳払いをしながら、顔を背けて青い瞳から逃れる。視界の端で、ジュナが不思議そうな顔をしていた。


 突然、コクが、はっとして身体を跳ねさせた。皆が、びくりと反応する。


「あー、そうだったー。用事があったんだー。帰るぞ、アウルー」


 冗長に言って立ち上がったコクは、アウルの腕をがしりと掴む。


「え? 僕は別に、まだ」


「はいはい。モテるのに結婚できないのは、そういうとこだぞ、アウルー」


 どたどた足音を立て、ばたばたと二人は退室した。忙しなくなるほど、大切な用事だったのか。


 グレンはジュナと顔を見合わせ、仕方なしと笑った。


「ねぇ、本当に、身体は大丈夫?」


 ジュナの瞳が、心配そうに揺れた。その青い瞳を見て、夢の出来事を思い出す。


「夢で、ゴルトに会ったんだ」


 グレンが呟くと、彼女は泣きそうになって頷く。


「あいつ、やっぱり、ジュピターの兄貴なんだな。そっくりな顔で笑ってた」


 グレンの言葉を黙って聞いて、彼女は、また頷いた。


 真っ白な空間で、飛び去った後ろ姿を思い出す。


「ゴルトは、もう、夢に出てきてくれない気がする」


 グレンの目から一筋、涙が流れていた。ジュナの手がグレンのを探して、柔らかく包む。


「後ろばかり振り返ってないで、いい加減、前へ進めってことじゃないかな。あの子は人を思い遣れる、優しい竜だったから」


 そう呟いたジュナの目からも、一筋の涙が流れた。


 グレンは、病室の窓から空を眺める。


 あの空を飛んで故郷へ帰れますように。グレンは、黄金色の竜を想った。

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