【旧版】ドラゴンライダー

KT

第一話 ダウン・アンド・アウト

ダウン・アンド・アウト 1

 青のただ中で、竜の背に乗っていた。


 見上げた視界に映る、境界線のない澄みきった景色。常なら雲が浮かんでいるだろうそれに、この日は太陽だけが輝いていた。


 身に付けるフルフェイスヘルメットはシールドが上げられており、当たり心地の良い風が入り込む。それは、少し、はみ出たアッシュグレーの髪をわずかに揺らし、厚手のレーシングスーツの内で汗をかく身体の火照りを和らげた。頑丈なブーツで、あぶみの踏み心地を確かめる。


「もう、すぐだ」


 呟いた声は何かを待ちわびているようで、しかし、僅かに震えていた。


 ギャオウ!


 唐突とうとつに、眼下から鳴き声が響く。しっかりしろ、とでも言っているのか。緊張で硬くなっていた口元が緩む。一人きりでたたずんでいるのではない。頼もしさを思い出す。


 黄金色こがねいろの竜。それが長い首を捻り、こちらへ顔を向けてきていた。空の青さをそのまま流し込んだような瞳が、じっと見つめている。大丈夫だと勇気づけるみたいに、バサリ、と、羽ばたいて空気を押し退ける音が耳に届いた。


 美しい、黄金色の竜。最高の相棒。怖いものは、ない。


 そのうち、視界に様々な色が飛来してきた。赤、茶、緑、銀……その、どれもが挑戦的な視線を投げつけて通り過ぎていく。


 胸の奥が熱くなる。これは、たぶん、新しい玩具を試す直前のような躍る気持ちだ。気負いはない。この先には、希望が待っている。


「ゴルト、行こう」


 竜の口元から伸びる手綱を握り締め、相棒に声をかけた。黄金色の竜は、ふん、と大きく鼻を鳴らして、気合い充分に翼を空へ打ちつけた。

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