第37話 何も足さない、何も引かない……
「先生やっぱり私が持ちますよ」
「いいから。いいから。僕も一応は男の子だしね!」
みやびが荷物を持とうとするが、自分で持つと手で静止するむつみ。
「じゃあ……二人で半分個しません?」
お菓子やジュースが入ったエコバックをみやびと二人で持った。もちろん腕は組んだままである。
「(ちっ)ありがとうございました~♪ (このやろー)」
きっと幻聴に違いない。そうに決まっている。さっきのカワイイ店員さんが舌打ちしながら、ちょっち怒っているように見えたのも幻覚の一種であろう。きっとそうに違いない。
そしてむつみさんはスーパーを出ると、気づきたくない現実に気付いてしまった。いや本当は最初から気付いていたけど、脳が勝手にストッパーとして考えることを拒否していたのだろう。そう行く地獄があるのなら帰り地獄もあるのだ。
「ね、ねぇ、みやびさん。……もしよかったらさ、帰りはバスにしない?」
「へっ?」
だが、みやびにはむつみの意図が伝わらなかった。
「いや、ほらさ……しゅ、取材の一環としてだよ。実はボクね、バスとかに乗ったことないんだろねー。あははははっ……」
理由としては、あまりにも苦しい。苦しすぎる。むつみさんの言い訳。
「えっ? そうなんですか先生? うーん……やっぱりダメです(きっぱり)」
「どうしてさ! まだ体験したことないんだよ! せっかくの
みやびが運転する車に乗りたくないからと、初めてにこだわるむつみさん。
「いえ、別にダメってことはないのですが……でも先生の場合『体験しない』方が良い作品書けますよね?」
「……はい」
そう正にそのとおりである。もはや何の反論もできません。むつみさんは実は恋愛モノを書いてたのに恋愛したことないのです。はい。
「まぁ私もまだ体験したことないんですが……ごにょごにょ」
みやびさんも恋愛未経験だったらしい……。ちょっと安心するむつみさん。
ピピッ♪
電子音が鳴り、ハザードが2回点灯してドアのロックが解除された。
「しまった!?」
いつの間にやら、みやびさんの車のドアまで来てしまっていたのです。
「あっ、荷物は後ろのトランクに入れますからね♪」
放心演技状態のむつみを他所に自分の車で帰る気満々のみやびさん。そもそも車で来店し、帰りはバスで帰るなんてのは普通にありえないのだ。シートベルトを締め、目を瞑るむつみさん。なにやらむつみさんがぶつぶつ唱えてるが、小さくてよく聞こえません。
「では先生のお家に帰りますか♪ ちゃんと帰りは先生の為に、ゆ~っくり安全運転でいきますから♪」
行き地獄を既に味わっているむつみにはその言葉すら信じられなかった。
(だってさ、だってさ、みやびさんがフロントのドリンクホルダーに水の入った紙コップ置き出したんだもん)
「あっこれですか? コップの水を零さないように回すように運転すれば安全なんですよ♪ っと、どこぞの厚揚げ屋のオヤジも言ってましたよ♪ …………たぶん」
もうむつみさんには『たぶん』だろうが『駄文』どうでもいい感じになっています。安全運転との言葉とは裏腹にグワングワンっとアクセルを吹かすみやびさん。その刹那きゅるるるる……この音って、きっとタイヤさんとむつみさんの断末魔だったんですね(現在確信形)。
それから帰り道も色んなことがありました。交差点でドリフトしたりっと、なんやかんや。そうこうしている内になんとか家に着きました。
「(…………もう何も思い出したくもないよ。うっぷ)」
むつみさんは今にも口から宝物を吐きそうになっていました。
「いや~、ちゃんとコップの水を零さずにドリフトできましたね♪ やっぱりコップの中で水を回すのがコツなんですねぇ~♪」
ちょっとみやびさんが何を言ってるのかよくわからない。
「あ、あれ~っ???」
「……何かあったの、みやびさん? もう大抵のことじゃ驚かないからね!」
恐怖も終わったのでなんでもこい! スターを取り、無敵状態のむつみさんは強気です。
「いや、でもなぁ~……」
何かを考えこむみやびさん。
「んっ??? もしかして……何か買い忘れたの?」
「あっ、いえね。実は……車を止める際なんですが、私
「ホワイ? ……なんだって???」
みやびさんが何か重要なことを怖く述べてらっしゃいますよ。
「もしかして走行中……いえ、スーパーの駐車場からずっとサイドブレーキ引きっぱなしだったのかも知れませんね! な~んて思っちゃったり。どうりで車が変な挙動するわけですよねぇ~♪ あはははっ」
誤魔化すように笑うみやび。
「ざわざわ、ざわざわ」
ただいま、むつみさんは賭博屋っぽい描写になってます。
「ま、大丈夫でしょう! ウイスキーだってそんなこともありますしね♪」
みやびさんはきっと「何も足さない、何も引かない……」っと言いたかったんだろう。みなさんは車を止める際はサイドブレーキはちゃんと引きましょう! そして車で走り出す際はサイドブレーキの存在をお忘れなく!!(確実必然事項です)
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