第35話 アクセスを踏むときは、全開が基本です!!
「それもそうですね。既に仮とはいえ原稿はできたわけですし……では代わりにスーパーか何かで買ってきて、この部屋でするのはどうでしょう?」
「えっ? この部屋でいいの? ボクは別にいいけど。みやびさんはそれでもいいの?」
みやびの提案が意外だったのか聞き返す。あと仮という単語がかな~り気になったが、あえて現実をスルーするむつみさん。
「人が多いのあまり得意ではないんですよ。それにできれば先生と二人っきりでしたいなぁ~っと思いまして(照)」
「ふ、二人っきり!?」
(どきどきドキドキ。なにこれ? フラグ? フラグなの? 英語でいうならグレネードなの?)
美人であるみやびと二人っきりという状況にむつみは胸の高鳴りを感じていた。
「それではちょっとスーパーまで行って買ってきますね♪」
「いやいやいや、ボクの家なんだからボクが行って来るよ。みやびさんはここで待ってて」
「いえ先生は疲れているので、ここは私が……」
「いやボクが……」
そして何回か目のやりとりのあと、
「では間をとって二人で行きませんか、先生?」
「うん。それがいいね、みやびさん」
ここから近所の食料品専門スーパー『スーパー牧瀬』までは、車で約10分っと少し遠いので、みやびが乗ってきたスポーツカータイプM6に乗ることになった。
みやびは車のキーのボタンを押すとピピッと電子音が鳴り、ハザードランプが2回点灯した。ドアのロックを解除した音だ。
「さぁどうぞ、センセ♪」
「し、失礼しま~す」
わざわざみやびがむつみの為に助手席側のドアを開けてくれる。どうやらエスコートしてくれるようだ。正直に言おう。M6は超がつく外国の高級車だ。それも馬鹿みたいにだ。
それは外観からも既に見てとれる。内装もシートは本皮で柔らかく、それでいてしっかりしている。これなら長時間座っていても疲れないだろう。ダッシュボードやらなんやら、ところどころの装飾品にも高級感が漂ってくる。M6は外的な高級感(見た目)だけでなく、車としての性能も桁違いだ。
排気量4500ccツインターボの560馬力・トルク69・3kgm。タイヤも国産の最高峰BS(ブレイクストーン)社製軽量アルミホイール19インチのスポーツタイヤだ。このタイヤならばしっかり地面をとらえ、馬力に負けない性能を発揮できる。これなら公道をなによりも速く駆け抜けてくれるだろう。あと値段が2千万近くと馬鹿高い。さすがにお値段も伊達じゃない。だが、乗る人にはそれだけの価値があるのだ。
みやびは運転席のシートの感触を確かめるように身動きする。カチャリとシートベルトを締めて、ミラーの角度なども確認する。オーディオを操作すると大音量の音が。はっきりいってデカい、デカすぎる。こんなとき、音は控えめなぐらいがちょうどイイってね……とはよく言ったものだ。
「(あまりにも大きな音だから、ガラスがカタカタっと共鳴しているのは気のせいだよね?)」
共鳴とは、音波・振動がガラスなどの物質にぶつかり、互いを振動させることだ。しかもみやびさんが無駄にぐわんぐわんっとアクセルを吹かすものだから、余計に『怖い』と感じる。
「先生シートベルト締めましたか? ちゃんと締めないと突き破りますよ♪」
「なにを!? 一体何を突き破っちゃう系なの!?」
さらにアクセルを吹かしながら、みやびは右の人差し指を口元に当て、
「ひ・み・ちゅっ♡」
っとちょっと小悪魔系の笑みを浮かべ、可愛く右目をウインク1つ。
普段とは違うみやびの可愛さ、そして雰囲気にむつみはドキドキするが、たぶん違う意味合いが大きいだろうことだろう。みやびさんは車のハンドルを握ると性格が変わるらしい。その刹那、きゅるるるるるっっと、けたたましい爆音とともに後輪がホイルスピンする。
無駄にアクセルを踏んでいたおかげか、または車が持つ高馬力の助けか、物凄い煙と音を出しながらホイルスピンしている。当たり前である。そりゃそうだわな。止まってるのにアクセル全開で踏みゃタイヤさんだって、ストレス(タイヤに負荷がかかって)で怒ってホイルスピンの1つもそりゃしたくなりますわ。
「じゃあ、出発しますね♪」
やはりみやびさんのテンションはあげあげ状態だった。むつみは車の加速でシートにグワーっと無理に押さえつけられ、初めて体験するG(重力)に困惑していた。それもそのはず、みやびはまだまた『アクセル全開中』なのだから……。
「あ、あの! みやびSON! 音楽とスピードはもっと抑えたほうが!」
もう『さん』が『SON』と英語表記になるくらいの混乱具合。大音量の音楽、かん高いエンジン音に阻まれて聞こえないと思い大きな声で叫ぶむつみだったが、どうやらみやびの耳にはそれすらも、まったく届いていないらしい。
よくよく見ると、みやびの耳には耳かけ型のイヤホンが収まっていた。いやいやいや、車内にも音楽流れてますがな。わざわざ耳にイヤホンって。
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