<第2章>『売れない人気ライトノベル作家と、その担当さんとの恋愛事情と、その結果。』
第32話 作家と担当さんとの攻防術
みなさんは、ライトノベル作家が1番嫌いな瞬間をご存知だろうか?
もしこれを読んでいて『あたいライトノベル作家になるわ!』っともしラノベ作家を目指す人がいれば覚えていて欲しい。
それはまさにこんなときだ。
「こ、これが完成した原稿です、みやびさん」
上目遣いにお伺いを立てるように、震える両手で賞状を差し出さんばかりに、完成したばかりの原稿『キミにキスを、あなたに花束を。』を自分の担当である
「それでは失礼しますね……」
原稿を作家であるむつみから賞状のように両手で受け取ると、その綺麗な長い黒髪を後ろ手でポニーテールに結ってまとめながら丁寧に断りをいれ原稿を読み出した。
その仕草があまりにも
だがこのとき、デビュー前の新人ライトノベル作家である
「あ、あのみやびさん? それで……どうかなそれ……」
「…………」
『担当さんから返事がない。どうやらただのシカトのようだ(泣)』
そう、何が怖いって、作家を傍で一番支えてくれる自分の担当さんに完成したばかりの原稿を読んでもらう……この瞬間こそが何よりも怖いのだ。
作家の担当とは読者に一番近く、また作家にも一番に近い存在である。
それになにより、その作品を一番に読み深め、また作者以外で一番の理解者であるとも言えよう。
だからこそ、余計に作品を評価する目がシビアなのである。
よく『ラノベ作家の担当なんて誰にでもできる簡単なお仕事!』っとそんな風に安易に思うかもしれないが、これがまた大変なのだ。
作家のスケジュール管理(作品の進行具合や作家本人の体調管理など)はもちろんのこと、作家に仕事の依頼(書いて欲しい大まかなジャンル設定や方向性の指示など)し、表紙や挿絵の依頼・打ち合わせ、ラフ画などを元にさらに作家と打ち合わせ、原稿を元に印刷所と打ち合わせ、営業とどんなふうに宣伝・販売していくや、1番大事な作品のチェック(新人応募作品のチェックなども含む)など、挙げたら本当に切がない。
特に作品の進行具合は1番重要だ。基本的に作家という生き物は、「締め切りとは破るためにある!!」っと常識外れなことを大真面目に言うものだ。
しかも、ほとんどの作家が納期を守らないのが現実だ。悲しいかな、これって現実なのよね、これ。
「ふぅ~……」
読み終わったのか、みやびが一息ついて、原稿を机にバサっと置く。
「あ、あの~……それでどうでした? 自分では良くできたと思うのですが……」
おずおずとした態度で作者であるむつみが聞く。
本来、作家と担当とは立場的には作家の方が上なのだが、年齢差とみやびの大人びた容姿が相成って担当であるみやびに敬語を使ってしまう。
みやびはむつみから感想を聞かれて。こう切り出した。
「まず、これは私個人の感想になりますが……」
「(ご、ごくりっ)」
その重い口調に、おもわずごくりと唾を飲み込む、むつみ。
「とても良くできたお話(物語)だと思います。キャラや設定はもちろんのこと、なによりも読者の期待を
柔らかに微笑むようなみやび。この瞬間でなければきっと惚れてしまうだろう。
「ですが!!」
そうびしゃりと言い区切る。(ピンチ再び! ピンチさんのワンモアチャ~ンス!)
『持ち上げてから落とす。飴を与え安心させ厳しく鞭を打つべし!』これ担当さんから作家への
イヤイヤ何も聞きたくない……っと言わんばかりに耳を両手で塞ぎ、ぶんぶんっと首を左右に振る。目もぎゅっと瞑ると視界も完全シャットアウト! ついでに呪文も唱える。
「 I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes.(僕は、耳と目を閉じ、口を噤んだ人間になろうと考えたんだ)」
こ、これで僕は
「確か続きは……or shoud I ? (だがならざるべきか?)でしたよね? 大丈夫ですよ先生♪ 私がちゃんとお傍についてますからね♪ それに怖いのは最初から最後までですからね♪ ライ麦でも数えていれば、あ~~~っという間ですから(ハート)」
みやびさんの可愛く首をかしげながらの満面の笑顔。
『これで墜ちない男はいない!(当社比120%増)』
ライ麦の数どころかむつみさん(作家)は既にがっつりと両肩を掴まれてしまい、取っ捕まえられてます。あと言葉と表情とが完全に一致してなくて、はっきり言ってもう恐怖という感情以外思いつかないです。はい。
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