第19話 何をするにも、まずは金!

「あぁ~もう! わかった、わかったから。応援でもマネージャーでもしてやるよ! だからそんな顔するな。葵が……こ、恋人がさ、そんな悲しそうな顔してるとオレだって……」

「あ~もう、お兄ちゃんはカワイイなもうぉ~♪」


 照れながらに言う智也に対し、葵がぎゅ~っと抱きついてくる。


「お、男に可愛いとか言うな! そんなこと言われても全然嬉しくともなんともないぞ!」

「え~っ。ボクはカワイイって言ってくれたら嬉しいよ。特に好きな人にならね♪」


 ウインクしながら、恥ずかしいことを言ってくる葵。


 それから智也と葵は一緒にどうすれば夢を叶えられるかを調べた。モータースポーツ未経験の葵にとって1番手っ取り早い近道は、どこかのレーシングスクールに入り、そこでスカラシップ(奨学金制度)を獲得し、レーシングカートを経てFJフォーミュラ・ジュニア、F3またはF4、マカオF3、最後にF1ドライバーにたどり着ける。


 こう聞けば実に簡単そうだが17歳という年齢は若いように思えるが、カートを始めるにはあまりにも遅すぎる年齢・・・・・・である。もしカート始めるなら才能のあるなしに関係なく、最低でも小学校低学年から始めるのが一般的なのだ。

 また費用もスクールなら数十万、カートなら数百万、フォーミュラ以上になると数千万以上の費用が毎年最低でもかかる。チームかスポンサーがつけば話は別だが、大半は自分で費用を持ち込む『自腹』が当たり前なのだ。


 それだけの資金を集められて、初めてレースに参加できる資格が得られるのだ。それにはドライバーの実力は一切関係ない。なぜならドライバーになれる資格がまさににそれなのだから。モータースポーツが他のスポーツのように実力だけが問われるのではなく、また一線をく1番の理由がそれなのだ。


 そもそも金がなければどんなに本人の実力があろうとなかろうと、レースに……いやドライバーとしての適性検査にすら参加する資格が得られないのだ。何よりもまず、資金が1番重要である。そこはフィリス学園と似ているところだろう。


 ここまで調べてとりあえず何よりも資金が1番重要であると大本おおもとに気づき、まずは葵の両親に夢を話すことが1番の近道だと考えた。


「恋人なんだし、一緒に話をしに行くか?」と聞いたら「やっぱりこうゆうことは自分で言わないといけないから」と葵に言われ、智也はその葵の考えを尊重することにした。そして週末の土曜日の朝、学園の近所だという実家に葵は帰っていった。部屋には智也が一人だけ残された。いつも一緒にいる葵がいない。


 それは智也が生まれて初めて味わう寂しさだったのかもしれない。母親に捨てられたときよりも、朝子が亡くなったときよりも、その心の寂しさは大きかった。葵が来る以前なら考えられない感情だった。そこで改めて智也は、葵のことが好きなんだとより実感した。そしてその日の夕方に葵は帰ってきた。葵はとても良い笑顔で「両親から2つ返事で承諾してもらえたよ!!」と喜んだ。


 そしてすぐさま1番近くにある『伏見レーシングスクール・フォーミュラ(FRSーF)』に体験スクールに申し込んだ。応募条件は、満15歳以上で持病がなく身長が160cm以上の健康な男女。また費用が数百万円するらしい。智也は「適性検査を受けるだけで数百万もすんのか!?」と驚いていたが、それは検査を受けるだけの費用だった。実際の走行でマシンやコースを壊した場合は別途・・であり、ちなみにマシンを全損させると軽く1000万コースらしい。っと葵から話を聞くと智也は愕然とした。


 葵は年齢は16歳とギリギリ。身長は160と0.1cm……っとギリ、本当にギリセーフだった(笑)。応募締め切り日も3日前でホントにギリギリ間に合ったのだ。そして、スクール体験当日の朝を迎えた。


「うぅ~、緊張するなぁ~」

「いつもどおりの葵で行けば大丈夫だ!」


 そう励ます智也もかなり落ち着かない様子だった。応募から3日、心の準備をする時間もなかったのだ。そうこうしている内に、講師が数人教室に入ってきた。


「みなさん、おはようございます。それではこれからFRSーF体験スクール講習を始めます。午前はレースにおける基本的なルールやカートの構造など座学がメインです。午後からは実際にカートに乗っての実地となります」


 などと講師の人達が簡単にその日のスケジュールを説明をしてくれた。

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