第16話 お菓子がなければパンを食べればイイジャナ~イ♪
「それとさっき不良達に囲まれているときに何か呟いてたのは?」
「あれをボクは『スイッチ』って呼んでる。電源をオン・オフするあんな感じ。うーん、上手く説明できないけど……一種の自己暗示になるのかなぁ?」
聞けば葵はスイッチのオン・オフと切り替えられるように、自分の思考能力や性格を様々に変えられるらしい。ただ身体能力・反射神経・知能などは変えられず、元のままらしい。つまりは自分で思い込む力。だから自己暗示などと答えたのだろう。
「それだけで……っつたら変だけど、あんなに強くなれるものなのか?」
「なれるわけないよ。だって筋力が増えるわけでもないしね。瞬間的に元々ある能力を100%引き出す感じかな?」
「いわゆる火事場の馬鹿力ってやつか?」
「そうそう、そんな感じの認識で合ってるよ♪」
そう笑いながら答える葵。
「う~ん。簡単に説明するなら……例えばこたつに足の指を思いっきりぶつけるよね。それってすっごく痛いよね? でも痛くないと自分で思えば痛くなくなる。つまりは痛いの痛いの飛んでけ~の強化版って感じかな」
「おまっ、それって最強じゃねぇか?」
「ん~っ。そうでもないよ。だって100mを10秒で走れるからと言って、そのペースでフルマラソン42・195キロを走れるわけじゃないからね。疲れもするし、何より体力が続かないもん。身体能力は元のままだしね」
だろうな。もしそれができたら世界新なんて軽いモノだろう。
「あとは護身術と武芸を少々習ってたくらいかな」
だからあっさり不良を倒せたわけだな。そして「他に聞きたいことは?」と聞かれたので、智也続けて葵に質問する。
「ここって転入できたのか?」
「そりゃ~できるよ。まぁ色々と難しいけどね。あとはコネかにゃん♪」
にゃんにゃん♪ っと右手を握り招きネコを真似る葵にゃん。
「他に質問はないかにゃ、お兄にゃん?」
「あ、あぁ……」
これで大体のことは解かった。あと半端なネコ語はやめとけ。普通にカワイイからな!!
ぐーっ、とお腹の音が聞こえてきた。そういや、昼メシがまだだったな。そんな智也に答えるようにキンコーンカーンコーンっと、昼休みが終えるチャイムが聞こえてきた。
「お昼食べ損なっちゃったね。でもそんなときにはコレだよ♪」
そう言って葵は主食用のパンを差し出してきた
「これは?」
「もうお兄ちゃん知らないの? パンだよパン。お菓子がなければパンを食べればイイジャナ~イ♪ で有名なあのパン。こんなこともあろうと、さっきレストランから貰っておいたんだ。2つあるからはい、どうぞ……あっにゃん♪」
きっと自分の設定を思い出したのだろう、付け加えたように語尾ににゃんと付け加える葵にゃん。さすがに今から昼メシにありつけないだろう。素直に葵の好意に甘えることにしよう。パンをかじりながら教室まで走る。水なしでキツイがそんな贅沢は言ってられない。
授業開始時間ギリギリなんとか間に合った。
「ほんと、ここ最近こんなんばっかだなぁ~……」
トラブル続きで、やや空を遠くを見つめる智也。
「んにゃ?」
葵は何食わぬ顔で隣の席に着いた。
「(……そういやコイツ隣の席だったな。色んなことがありすぎて忘れてたわ)」
それからは普通に授業を受け、やがて放課後になり智也は帰ろうとする。
「あっお兄ちゃん帰るの? せっかくだし一緒に帰ろうよ♪」
「一緒に、って言ってもオレ寮住まいだぞ」
学園から寮まで数分の距離、一緒に帰るにしては短すぎた。
「うにゃ? だからボク一緒にって言ったんだけど……」
どうやら葵も智也と同じ寮に入っているらしい。とりあえず葵と一緒に寮に帰る。そして智也の部屋に着き、「また明日な!」と別れようとするが、なぜか葵も一緒に部屋に入ってきた。
「ちょおまっ、一体どこまで付いて来る気なんだ!?」
「だってボクもここの部屋だよ♪ 席も一緒、部屋も一緒、ほんとすっごい偶然だよね♪」
「(……はっ? いや確かに前の奴が退学して一人部屋なんだが。でも偶然にしてはあまりにも出来すぎじゃないか?)」
と思っていると、
「まぁ実を言うとボクがお兄ちゃんと一緒に、ってお願いしたんんだよ。ちょうど良いタイミングで部屋も空いてたしね♪」
「(お前が原因かよ。それはもう偶然ではなく、もはや必然行動だろうが! もしかしてルームメイトが退学したのもコイツが……)」
「や、やだなぁ~お兄ちゃん……さ、さすがにそれはないよ。お兄ちゃんと一緒の部屋になりたいからって、ボクの為に生徒を退学させたりはしないよぉ~♪」
葵が先回りするように言う。
「(何コイツ? 相手の思考を読み取る超能力でもあんの?)」
訝しげに葵を見ていると、
「ちなみにだけど相手の思考までは読めないよ……あっにゃん♪」
などと冗談交じりにウインクする葵にゃん♪
「なんかもうどうでもいいや……」
疲れからか智也はベットに倒れこみ、考えること自体を放棄した。
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