使い魔を召喚したら魔王様だった様です

Crosis@デレバレ三巻発売中

第1話魔王様を召喚してしまったみたいです。

 辺境の地を治める領主、そこら辺の商人よりも、下手をすれば平民よりも貧しい暮らしをしているいわゆる底辺貴族の一人娘として産まれた私は今自分の漏らした尿の上で土下座していた。


 いや、先に言い訳させて欲しいのですがそういう性癖があるとかでは無く純粋に許しを請うべく土下座していた。


 そりゃ、つい先程までわたくしの人生に嫌気がさし死んでも良いやと少なからず思っていたのは事実で御座いますが流石にだからと言いまして心の準備も出来ない内にいきなり「じゃあ死のうか?」と言うような状況に立たされますと「やっぱり死ぬのは嫌で御座います」と死の恐怖心で漏らし……粗相してしまった自らの黄金に輝く体液の上で土下座してしまうのは当たり前の事だと、わたくしは思います。


 わたくしは、思います!



「ま、魔王様を召喚してしまうつもりなんて無かったのです! ですから命だけは!!」



 魔術の才能も無く、使い魔一匹すら召喚出来ないわたくしは帝国中の貴族が集う帝国立魔術師育成学校では嘲笑の的であり肩身の狭い学生生活をしております。


 もう、わたくしに生きる価値あるのかなーと思ってしまったり、その結果「魔王でもなんでも良いから使い魔さん出てくださいまし!」とお願いしてしまったりするのは不可抗力だと思うのです。



「……これは一体どういう事だ? VRMMOにしてはやけにリアル過ぎないか?」

「も、申し訳ございませんっ! ゔ、ゔいあーるえむえむおー? とやらが何なのか存じないのですが間違いなく全てわたくしのせいで御座います!」



 いやだってまさか本当に魔王様が出てくるとは思わないじゃないですか。


 魔王様を見た事は無いのですけれど、明らかに物凄く高い事だけは分かる黒い服に二翼の巨大な漆黒の翼、そしてヤギ角の様に捻れた漆黒に輝く立派な角を頭側面に二本生やし、挙句の果てに金色に輝く魔眼である。


 そして彼の手の甲、白い手袋を突き抜け輝く光の紋章は紛れもなく使役される方の紋章であり、わたくしの手の甲には使役する方の紋章が「犯人はコイツであります魔王様!」と告げているかの様に光輝いている。



「と、兎に角状況説明は後にしてもらうとして先にお風呂でも入って来たらどうだ?」

「わ、分かりましたわ!!」



 そして魔王様はどうやらわたくしの身体が御所望の様である。


 そりゃ金糸の様に輝く髪、出るとこ出てくびれもしっかりとある健康的な身体、そして顔は我ながら美しい方だと密かに思っておりますゆえ、わたくしを欲するのは分かります。


 何時もは周りの嘲笑に嫉妬を加えてしまうこの無駄に整った容姿もこの時ばかりは自分の美しさに感謝ですわね。







 と、思った事がわたくしにも御座いました。


 今は学生寮の部屋に備え付けられているシャワーで身体を清めた後、土下座しておりますが何か?



「わ、わたくしが汚した床を掃除させてしまい申し訳ございません」

「構わん。流石に臭いしな。それと土下座もいいから」



 最早どちらが主人で従者か分からない?そんなものわたくしが従者に決まっておりますわ。


 強い者には巻き付くのがわたくしシャルロッテ・ヨハンナ・ランゲージであるわたくしの、ひいてはランゲージ家の家訓とも言えますわね。弱小貴族ですもの。


 し、しかし魔族とはいえど殿方に自分のにょ……その……お体液の匂いを嗅がれるというのは……そ、想像以上に恥ずかしいものなのですね。


 恥ずかしさで顔が火照ってしまいます。



「で、本題なんだがこの世界はVRMMOの世界ではないのか? やけにリアル過ぎるが……現実と言われた方がしっくりくる」

「幻術か何かという事でしょうか? でしたらそのー…なんと言いますか、残念ながら現実としか言いようがないと言いますか……」

「そうか……で、元に戻す方法はあるのか?」

「使い魔召喚ですもの……ありません」



 わたくしの返答を聞いた魔王様は少し寂しそうな表情をなさり「そうか」とだけ呟いた。



「それで、魔王様……もしよければお名前を教えて頂けないでしょうか?」

「名前……名前か……そうだな、ディア・リガズ・インベイジョンだ。ディアで良い」



 やはりと言いますかなんと言いますか……名前、苗字、家名と三回名乗った事からして最悪魔王様ではないとしても最低でも貴族様であります。


 着ている服、そして上位魔族を表す翼が四枚、太いそして黒い角、魔眼からも間違いなくわたくしの様に底辺貴族でもないでしょう。


 まあ分かってましたけどワンチャンあるかなーと思ってしまった事を悟られない様に吹けない口笛を吹いてみたりして。



「で、俺はどうすればいい?使い魔としてお前を守れば良いのか?」

「ディア様はお、怒ってませんの」

「過ぎた事は怒っても仕方ない。元に戻せないんだろ?なら今すべき事はこれから何をするかだ。それと様はやめてくれ。むず痒くて仕方ない」



 小さな声でディアが「これがゲームのキャラで異世界転移って奴か」って言っていた様な気がしますが気のせいでしょう。


 それよりもディアがおっしゃられた様に、ディアとわたくしのこれからの事を考えなければなりません。

しかしながらせっかくディアを召喚したのですから、もしこれが神様からのプレゼントならば少しくらい欲を出しても良いのではないでしょうか?



 それにはまずこのディアをわたくしの魅力で首ったけのメロメロにしてやればわたくしの願いの一つや二つ余裕で叶えてくれるのではないか?


 いや、間違いなく行ける。


 わたくしも罪な女ですね。



「ねぇ〜ディアぁ〜」

「な、なんだ?」



 この色香、この妖艶さがあればいくらディアと言っても余裕で籠絡出来るでしょう。


 そう思いながらシャルロッテはクネリクネリと自分的にディアを籠絡出来るであろう動きと間延びした声で色香を撒き散らしていく。


 見た事はないのだが気分だけは色街トップクラスの最高級娼婦である。



「あの〜ぅ、一つお・ね・が・い・聞いてほしいな〜ぁ?」



 ここでバチんと一つウィンクを飛ばして、うるうるさせた瞳で上目遣いを使いディアを見つめる。



「……なんの真似だ? ………はあー……そんな事をしなくても俺が出来る範囲でなら聞いてやらん事もない」



 もうね、立つ瀬なしとはこの事なのではないでしょうか?


 ディアの顔からは「こいつ何やってるんだ?」という感情が深いため息と共に如実に伝わってくる。


 少し前のあの自信は何処から来たのか少し前の私に問い詰めたい気分である。



「は、恥ずかしい……」



 顔は火照り肌寒い春の季節と言えど暑過ぎるほどの体感を顔面中心に感じる。


 パタパタと手で風邪を起こし顔を冷やそうとするのだが焼け石に水であり先程の光景を思い出しては更に身体を熱くする。


 むしろこの状況こそがディアの思う壺なのではないのか?ありえる。


 処女に……ニュアンスを間違えましたわ。乙女に恥をかかせた責任を取って貰いたいくらいだ。



「……言って良いのかどうか分からないが考えてる事全て口に出てるぞ?」


 本日何度目かの土下座である。


 もう何年分かの土下座を今日一日にまとめたのではないかというぐらい土下座の大安売りである。

 魔王様を使い魔召喚するだけでは足らず、自分のために使役しようとしている事がバレては死罪待った無しであろう。


 被害者および裁判官はディアである。


 使い魔は召喚主に直接攻撃出来ないのだが範囲攻撃はその限りでは無い。



「まったく……土下座は良いから。それでもう一度問うがお前の願いは何だ?」

「ふぇ……願いを聞いて下さいますの」

「聞くだけだ。実行に移すかどうかは聞いてから考える」



 聞き間違いではないのかと思ってしまう。


 授業などであれ程残酷であると言われ教えられて来た魔族、しかもその高位であろう存在のディアがわたくしの願いを聞いてくれるというのだ。


 何か策あっての発言なのかなんなのか分からないのだが、取り下げられる前にお願いをしなければとはやる気持ちを抑えながらディアにわたくしのお願いを口にする。



「で、では……わ、わたくしと……その……お、お友達になってくださいまし」



 発言した後部屋に静寂が訪れ、まるで時間がゆっくりと流れているかの様な息苦しさを感じる。


 その間不安と緊張で同期は早まり呼吸は荒くなる。それがまた息苦しさを強めていく。



「友達……友達か、良いだろう。我がご主人様よ」



 そういうとディアはわたくしの頭を乱暴に撫でて来る。


 その時のディアの表情を見てわたくしの心臓は大きく一つ跳ねあがってしまう。


 ドキドキと心臓が激しく鼓動しながら、この日わたくしシャルロッテに産まれて初めての友達が出来たのであった。

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