江戸川

「ねえねえ、おじいちゃん、またあの話をしてよ」

「そんなにあれが好きか?」

「なんか、あの話、ワクワクするんだよね」

「してやってもいいが、繰り返し言っておくが、絶対に真似しちゃいかんからな」

「わかってるよ。あぶないんだよね」


 そうして祖父はまたあの話をしてくれた。彼がまだ小さかった頃、江戸川に架かる総武線の鉄橋周辺は、当時のこどもたちにとってかっこうの遊び場だった。


 鬱蒼とした草の森の中でバッタやトンボを捕まえたり、水辺の土壁にカニの巣を見つけては爆竹を突っ込んでふっとばしたり、水たまりにカエルの卵を見つけては家に持って帰って気持ち悪がられたり、もちろん、即席の竿を使って魚釣りをしたりと、そこは男の子たちにとって誰にもとがめられないパラダイスだった。


 そんな中、ある種の度胸試しの儀式があった。当時の江戸川に架かる鉄橋は、下から潜り込むができて、線路の上にも自由に出入りができる環境だった。もとから鉄橋周辺にはおとながいなかったので、悪ガキどもにはとても冒険心をくすぐられる場所であった。

 線路のレールの上に、小さな石ころを置いていた犯人がカラスだったというニュースが話題になったことを覚えている人もいるかもしれない。カラスがどんな目的でそれをしていたのかはわからないが、遊びでやったのではないかという考察もある。

 まさに、カラスと同じ程度の知能だった莫迦な悪ガキどもも、電車が通ったあとにどうなるかを観察するのが流行っていたのだ。そして、そんな悪ガキ連中なら誰もが一度は好奇心をそそられることがあった。

 レールの上に10円玉を置いたら、列車が通ったあとにどうなっているか、莫迦なこどもは妄想をふくらませるであろう。石ころみたいに跳ね飛ばされるのか、漫画みたいにぺしゃんこんなるのか。当時のなけなしの小遣いからしたら、そんなにしょっちゅうできることではなく、月に1回くらいの大イベントであった。


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【筆者注】

 硬貨をそのような目的に使うことはそもそも法律違反であり、さらに、レール上にものを置く行為は重大な刑法違反であり、もっとも罪が重い場合、死刑になる可能性もあります。

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 けっきょく祖父が10円玉をどうしたか、いつも話はうやむやになってしまうのだが、いろいろな狩りの話を聞くだけで、僕は楽しかったのだ。


 そんな祖父の話の中で、僕が興味を持ったのはある伝説のことだったが、大きくなるにつれて、そんなことはほとんど忘れかけていた。

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