もういいよ

naka-motoo

もういいかい

 かくれんぼじゃない。

 もう、いいでしょ。

 十分でしょ。

 これ以上どうするつもりなの。


「You have done enough to her」

「Oh」


「人生僅か五十年、花に譬えて朝顔の、露より脆き身を持って、いついつまでもおるように、親子兄弟夫婦じゃと、愛と情とにからまれて、憎いというては腹を立て、かわいというては欲おこし、世間の人と交わるも、自分に都合のよい時は、かれこれいうて出入りする、一度意見を間違えば、互いにうらみ憎み合い、昨日も暮れた今日もまた、あるやないやにとらわれて、明けても暮れても罪ばかり、近く所は墓場なり、ほんに思えば皆さんよ、生まれた初めがあるなれば、死ぬる終わりがあると知れ」


 わたしは暗唱する。このわたしの恩人の事実の言葉を。

 決して誰も逃れることのできない本当のことを。


 それを、「別にそれでもいい」と括ったひとが居た。

 そのひとはわたしのいくつかの希望を極めて無秩序に屠り、自らの大願を、時間稼ぎをした挙句に時間切れとし、駄々っ子が放置という卑怯な処置によって結局は通してしまうことを実践した。


 こういうことは実践するが、やっている『仕事』は実務ではなく、虚構の仕事だった。人類のために研究するという。


 わたしには他にも物言いたいひとたちがいる。そしてわたしにはその資格がある。


 わたしの書いた、おそらくは本当に骨のカルシウムと脳細胞のかなりの数を破壊して作ったわたしの命と引き換えのような文章を、何か別の方向に浸透させた。


 それはわたしのセリフだろう。


「もう、いいかい」

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