声も呑まれる

蒼月ヤミ

第1話 息も呑まれる

 目が覚めた。それと同時に、息を呑んだ。

 振るような星空とはきっと、これのことを言うのだろう。

 すうと喉に入り込んでくる澄んだ空気。さわさわと頬を擽る柔らかい草。灰色に染まった木々の葉の額縁の合間に、藍色を溶かした黒の闇。そしてその闇を切り取る、幾千幾万もの星々。

 目から入ったその光景は、喉元を通って胸を躍らせる。


 ああ、なんて。

 美しい。


 手を伸ばせば届きそうで、絶対に届かない何万光年先の景色。それでも無意味に腕を持ち上げる。冷えた風が指先をなぞった。

 とく、とくと、いつもより少し早い速度で心臓が走る。

 さわさわと木々の葉が擦れる音が、耳に心地良かった。


 ああ、こんな世界なら、良いな。


 そうぼんやりと思う。

 この世の美しさの終りにある、静かな静かなこの光景。

 こんな世界が見られたのだから。


 もう、良いかな、なんて思う。


 持ち上げた腕を降ろして、鼻から深く息を吸い込む。気付かぬうちに雨でも降っていたのだろうか。どこからか湿った土の匂いがした。

 満点の星空に包まれて、気付けばまたゆっくりと、瞼が落ちていった。

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