女神達の楽園

@Drhemlok

第1話 旅人の章


昔々、ある所に四柱の女神がおりました。


空の女神、ソアは、愛しき姉妹達のために空を作りました。

太陽の女神、オグランは空を光で満たしました。

そこに大地の女神、サヨが大地を作り出しました。

最後に花の女神、アシュが大地を花々で満たしました。

こうして、女神達は楽園を作り出しました。

四柱の女神は、楽園が生命で満たされるのをいまかいまかと待ちわびましたが、待てど暮らせど、聞こえてくるのは木々のざわめき、鳥のさえずりばかり。

遠く離れた「街」という場所では、人々が活気付いているというのに。


そんなある日、ついに楽園に人が訪れました。

ボロボロのマントに、傷だらけの身体。

その風貌は、およそ楽園に相応しくありません。

女神達は彫刻の様に美しい人間を待っていましたが、この初めての来訪者を嫌な顔一つせず受け入れました。


ボロボロの旅人は、大空の下、大地に寝転び、花に囲まれ、太陽の光を浴び、みるみると癒されていきました。

旅人は感謝しました。

そして大変恩義を感じ、女神達に報いようと決意しました。


旅人は毎日花を愛で、大地を労り、空に敬意を払い、太陽に感謝の言葉をかけました。

しかし女神達は旅人に対して期待をしておりませんでした。

どれだけ頑張ろうと所詮人間。

大したことはできないだろう、と。

ただ太陽の女神だけが、柔らかい光で旅人を包んでくれるのでした。


旅人はいつしか太陽の女神に恋をしました。


旅人は楽園の入り口に立ち、いかに女神達が素晴らしいか、いかに楽園が心地良いかを語りはじめました。

吟遊詩人のように。

その声が風にのり、はるか彼方の「街」に届いたのでしょう。

いつからかポツリポツリと、人々が楽園に辿り着くようになりました。

旅人は訪れる人々が善人である事を確認すると、密かに旅支度を整えました。


恩は返した。

また旅に出よう、と。


楽園の入り口に立つと、旅人は振り返ります。

どうかこの幸せな時間が続きますように、と祈りました。

女神達は人々に囲まれ、幸せそうに見えました。

しばらく眺めていると、いつの間にか太陽の女神が隣に立っている事に気づきました。


私達にも、いつか、共に歩いてくれる方ができるでしょうか?


太陽の女神はどこか寂しげに言いました。


私が、貴女と共に歩きます。貴女さえ良ければ、貴女が嫌ではないのなら、側に居させて下さい。


旅人は、思わずそう口にしていました。

太陽の女神はびっくりした様に手を口にあて、しばらくすると顔を赤らめながらこっくりと頷きました。

旅人は天にも昇る気持ちになり、思わず太陽の女神を抱きしめようとしました。


お姉様ずるい!!


それを止めたのは花の女神、アシュでした。

そうです。

太陽の女神は「私達」と言っているのです。

旅人は、くすくすと笑うと、小柄な花の女神の頭を撫でながら、こう言いました。


必ず貴女に相応しい伴侶が見つかりますよ。

この私がお手伝いするのですから。


そして、旅人は荷物を降ろしました。

もう何処かへ行こうという気はなくなっていました。

求めていたものは、最初からここにあったのです。


その後、女神達と旅人がどうなったか?

今でも楽園で楽しく暮らしているみたいですよ。

花の女神に伴侶はできたかですか?

それはまた次の機会に話しましょう。

花の女神にふさわしい、美しい僧侶との、恋の話を。

それまで、しばしのお別れです。

それでは、失礼させていただきます。


閉幕。

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