BLACK CAT

宮下ゆずき

第1話 伝説のスナイパーの恋物語

雨の降る夜、1人の少女が走り去っていく。

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

と息を切らせて、少女はただひたすら走る。少女がいた場所には5人の死体が転がっていた。やがて、全身真っ黒な少女は、夜の帳に消えていく。

「BLACK CAT……君には才能がある……」

そう呟いた男は土砂降りの中傘もささずに、雨で濡れた髪を左手でかきあげる。少女に狙いをさだめるかのように目を細めながら。

 ――それから、3年後。

 廃ビルの屋上から、街を見下ろす、少女。

少女は、背負っていた鞄をおろし、カチャカチャとライフルを組み立て始める。

 少女の後ろから、階段を登る足音が聞こえてきた。

「やぁ。BLACK CAT。俺はレオン。ここで君の仕事を見てもいいかい?」

足音の主は、ニコニコしながら、そう言った。

BLACK CATと呼ばれた少女は面倒くさそうに、「どうぞご勝手に。」と言いながらターゲットに照準を合わせる。

「そろそろ君の名前を教えてくれないかな。BLACK CATって長いから、呼びにくいでしょ?」と相変わらずニコニコしながら、アリスの方を見る。

 「アリス。集中するから、話しかけないで。じゃなきゃ間違えてレオンを撃ってしまうかもね」

アリスはそう言って、照準を覗き込む。相変わらずレオンは楽しそうに喋り続けている。

「そういえばさぁ。俺、アリスちゃんに恋してるって気づくまで3年もかかったんだよねぇ。」

そう言われて、ターゲットが現れていないのに危うく引き金を引きかけた。

「今、話しかけるなって言ったよな?脳幹ぶち抜くよ?いいの?脳幹ぶち抜かれたいから喋ってんでしょ?ねぇ?」

「顔!アリスちゃん怖い笑顔浮かべないで!」

「脳幹ぶち抜かれたくなかったら黙っておすわりしてろ。」とアリスは地面を指差した。

大人しく地面に座るレオン。

アリスが照準に視線を戻し、ターゲットを待つがなかなか現れない。今日はもう現れないとそう思った時、運よくターゲットが出てきた。アリスはターゲットに照準を合わせ、引き金を引いた。銃弾がターゲットに命中したのを確認してから、アリスはライフルをケースにしまう。アリスはチラッとレオンを見た。案外大人しく言われた通りにしてるんだな。と感心しながら。そして家に帰ろうと歩き出したのだが、後ろからついてくる足音がもう一つ。アリスが止まると後ろの足跡も止まる。不審に思いアリスは後ろを振り返った。そこにいたのはレオンで人懐っこそうな笑みを浮かべ「えへへ、家から追い出されちゃった。」と言った。アリスは呆れて文句を言う気力すら無くなっていた。

「へー。めっちゃ大変。今日の宿探さなきゃ。」と真顔で言えるくらいに呆れていた。

「アリスちゃん、めちゃくちゃ棒読みじゃん」

「泊めないからね?だからついてこないでよ?絶対よ?」

「いや、めっちゃ念押しするじゃん」

「当たり前でしょ。いきなり会ったばっかりのやつについて来られると誰でも恐怖でしょ!?しかもこんなか弱い女の子を付け回すなんて。」

「アリスちゃんはか弱くないと思うな。」アリスはそう言ったレオンの顎下に小銃を突きつけ、「誰がか弱くないって?」とドスのきいた声で言った。

「えー、そう言うところ?」とレオンは両手を上げ降参のポーズをしながらアリスを見た。「まぁ、いいけど。次言ったら、消すからね。」とアリスはなんとも清々しい笑顔でレオンに言った。

それを聞いたレオンは「俺は、アリスちゃんのことが好きだ。」とアリスに告げた。

アリスからしてみれば、何言ってんだこいつ。今日会ったばかりじゃねぇか。状態。

「寝言は寝ていえ。」そう言いながらさっきしまった小銃をレオンに突きつける。

「ちょ、アリスちゃん、怖い怖い。」

「怖くねぇよ。これが通常だ。」

「とりあえず、小銃しまおう?」

「チッ!」

「今、盛大な舌打ちが聞こえた・・・。」

「うるせえ。帰る。」と小銃をしまい歩き出したアリスの腕をレオンが掴む。

「待って!」

「なに。」

「俺は、アリスちゃんを3年前から、好きだった。」

「は?ロリコン・・・・?」

「ロリコンじゃない。」

「いや、ロリコンだって。今、あたし18歳。」

「ロリコンじゃないって。」

「じゃあ聞くけど、レオンは今いくつなの?」

「36歳だけど・・・・?」

「ロリコン。」

「違うと思う。」

「否定しないんだ・・・・。」

こんなやり取りをしながら、家まで返ってきた。

アリスは家に入ってそのへんに置いてある瓶を手にとり瓶の中身をコップに移して一気飲みした。

そしてレオンの方に向き直り「付き合ってあげてもいいよ。」そう言った。

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