10 組織名を決めよう

「そういえばさ、藤宮」


 俺は漫画雑誌をパラパラと捲りながら、唐突に脳裏を過った疑問を尋ねてみる事にした。


「別にギルドって、此処だけじゃないんだよな?」


「ええ、そうだけど。それがどうかした?」


「いや……だとしたら、個々の名前が有ると思うんだけど、此処はどんな名前なんだ?」


 俺がそう口にすると、それなりに人が集まってざわついていた共有スペースが、急に静まり返った。


 それはまるで、会話中に大きな地雷を踏んだように。


「……決めようとした事はあった」


 そう答えたのは、一時間ほど前にやって来た折村さん。

 決めようとしたって事は……決まって無いのか。


「だけどな……俺達がそれぞれ自分勝手に違う意見を出し合ってさ……決まると思うか?」


「いえ……思いません」


 正直この午前中に知り合った人達も、随分と個性的なキャラをしている人達だらけだったし……ネーミングなんていう感性が重要な決めごとは決まらねえよな、うん。

 周囲からは、「アレを決めるとか、きのこたけのこ戦争に決着付ける位、難易度が高いよな」とか、「嫌だ! 俺はもうあんな不毛な争いで血を見たくねえ!」とか色々聞こえてくる。

 血を見るって……コイツら組織名一つ決めるのに、一体どんな争い方してるんだよ。


「まあ……確かにいい加減決めないと駄目よね。他のギルドから、呼び辛いからさっさと決めろって言われてるのよね」


 まあそりゃそうだよな。


「あ、そうだ。宮代君は何か良いアイデア有る?」


「俺?」


「一応宮代君以外のメンバーは皆意見を出し合ってるし、今仲間の中で要望を聞いていないのって宮代君だけなのよ」


「ああ……そう言う事なら。えーっとなんか無いかな」


 俺は腕を抱えて唸りだす。

 何か無いだろうか。こういった組織にピッタリな名前は……あ、これ何かどうだろう。


「……漆黒の翼」


 どうだ。最高にカッコいいと思う……ってアレ?

 なんだか皆浮かない顔をしている。


「宮代君は普通のツッコミキャラだと思っていたけど……まさか厨二病拗らせてた?」


「いや、別にこの位厨二病にカテゴリされないだろ。厨二病っていうのはもっとこう――」


「言わなくていいから! 宮代君の思い浮かべる厨二単語を聞いたら、こっちまで恥ずかしくなりそうだから!」


「どういう意味だソレ!」


 結局俺の最高にカッコいい漆黒の翼は採用されず、この案件が決まるのは、ずっと先の事になりそうだった。

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