私はキバコ

藤原 忍

第1話 名前はキバコ、よろしく


 私の名前は木場冴子きばさえこ。子供の時から、木場家の子供でオンナノコだから木場子、という意味でキバコなんて呼ばれていたのはほんの数年。小学生になったら冴子の名前から「牙」の子供という意味でキバコと呼ばれるようになった。おかしいな。


え?ニスイ忘れてるよ。知ってる?ニスイが付くの、私の名前。


 大事なことだからもう一度言います。ニスイという部首が付く、冴子です。

 誰よ、そこで何でも牙向くからキバコなんだっていう奴。ちょっと出てきなさいよ。木場家の子供でオンナノコだからキバコなの。そこんとこよろしく。

 え?年齢?聞くもんじゃないからね。女性にそんなこと聞かないって教わらなかったの?

 あ、女じゃないって、ゲンちゃんかき混ぜないでよ。間違えても乙女なんてことは言わないけど、心は乙女よ、いくつになっても。だから私は女ですってば。ちゃんと子供もいるでしょ?

 まぁ、失礼ね。アノヒトが細胞分裂したわけじゃないし、私が細胞分裂したわけじゃないでしょ?クローンでもないからね。そこ、ウチの子バケモノみたいに言わない。確かに親より優秀だけどね。

 は?

 それでも?

 それでも聞くの?

 じゃぁ、ヒント。

 この仕事についてあと何年かで30年。それで勘弁してよ。常連なら知ってるでしょ?そうだよ、創業時からいるわよ。社長に拝み倒されて働きはじめたのが最初だからさ。

 謎が多いオバチャンにしておいてよ。こっちも商売に影響があるからさ。謎多い弁当屋のおばちゃんだよ。文句ある?

 謎が多いから、弁当が売れるんだってば。

 あ、アンタ、信じてないでしょ?ひどいなぁ。

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