月と海

阿尾鈴悟

活動日誌『あとがき』、及び活動日誌『まえがき』

 悲しくはないよ。だって、今まで辿ってきたレールの先は、ここに着くって知っていたから。でも、やっぱり、約束を守れそうにないことだけは、残念に思うんだ。



 学校の屋上は使えない。安全上のだの、防犯上のだの、言い訳の見本市みたいな理由で、屋上へのドアノブにはホコリが積もっている。それも夜に使いたいなんて、顧問の教師でも許しはしない。僕が顧問でも必ずそうする。だって残業も許可取りも面倒だ。

 だから僕は自宅の屋根からそらを見る。星と星とを繋ぎ合わせて、遠い昔に想いを馳せる。それが唯一の天文学部部員としての活動。一人でも出来る中核を為す活動なのだ。

 宇宙はあまりに遠くて広いすぎる。仮に宇宙地図なんてものがあったとして、その地図からたった一人の知らない誰かを見つけるなんて、きっと出来っこないだろう。僕を米粒のようにしてしまう地球が、米粒のようになってしまうほどに宇宙というのは及びもつかない。

 広い宇宙を見るために、望遠鏡で宙を切り取る。小さな宇宙を絵画に見立て、かつての星と今の星とを比べながら鑑賞するのだ。まあ、セールを狙って自費で買った●●望遠鏡では、比較もたかがしれているけど。

 前述の通り、それが中核の活動。だったらもちろん外核の活動もある。それが今現在、記している活動記録である。この活動記録を読む人間なんて僕を含めているかどうか分からない。それにどんなことを書いていいのかもよくわかない。

 分からないなりにまずは月から始めようと思う。天文学部として外すことが出来ない天体の一つだろう。それに、我々人類が現在置かれている状況を考えても、やはり記すべきだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る