第20話 はじまらない動乱に怒る信秀の事。
【 織田信友 】
信友は奉行職であった織田達広の子供であり、守護代の織田達勝の養子に入り、守護代職を引き継いだ。織田の頂点である
守護の
自分はどうか?
清洲織田氏(大和守家)の守護代は信友である。
尾張国下四郡の支配者の称号は守護代である信友が持っている。
しかし、清州周辺を支配するのみだ。
尾張国下四郡の支配権は奉行職の織田弾正忠家が持っている。
さらに、清州周辺を支配する守護代であっても、家老や家臣団の意見を聞かない訳にはいかない。
特に守護又代である
この大膳が持ってきた話は魅力的であり、同時に背筋が凍った。
駿河守護の今川義元、伊勢守護の北畠晴具、美濃守護代の斎藤利政という三カ国から助力と支援の確約書であった。
簡単に言えば、『逆賊、織田信秀の討伐』を手伝うという内容である。
討伐後、信友を尾張下四郡守護代として、統治の後ろ立てとなってくれる。
ありがたい申し出であった。
赤鬼を誘き出し、三カ国が結集するまでの時間を稼ぐと言う役目がなければの話である。
冗談じゃない。
20万の首を一瞬で刈ると言う赤鬼を尾張国下四郡の大和守家で翻弄しろと言うのである。
本当に可能か?
1ヶ月以上も軍議の結論を先延ばしにしたおかげで、尾張国上四郡の伊勢守家も討伐に加わる事になった。
岩倉城の織田信安は信秀の後ろ盾で岩倉城主になった経緯がある。
信秀の妹を妻に貰いながら、よく討伐に参加する気になったと思う。
しかし、しかしだ。
状況は何も変わっていない。
「大善、もう一度聞くぞ。赤鬼が攻めてきた城は、城を放棄して逃げるのだな」
「我らの目的は時間稼ぎです。赤鬼を討伐する必要はございません」
「本当に将を逃がす事は可能なのか?」
「問題ございません。鬼共は少数です」
大善は強気に『討伐しない』と言うが、『討伐できない』の間違いである。
そして、赤鬼が来る前に逃げると言う消極的な作戦である。
それも仕方ない。
この清州に赤鬼と対峙したいという豪の者はいない。
「今川、斉藤、北畠が到着するのを待つのみでございます。特に北畠具教様は赤鬼との一戦を楽しみと言われる豪の者でおります。時間のみ稼げば、討伐は間違いなし、勝利は揺るぎない。恐れる事は何もありません!」
「そうは言うが兵達は逃げられるのか?」
「問題ございません。那古野の諸将も赤鬼を憎んでおり、内部より情報を漏えいして頂く。我らは赤鬼が来る前に、別の城を攻めるのです」
「大善殿、赤鬼は大浜の大手門も一撃で壊したと申しますぞ」
「そのような戯言を信じるものではありませんぞ」
発言力の強い大善、河尻、三位が強く主張しても、多少の犠牲に各城主が賛同してくれない。
それもそのハズです。
矢面に立たされる兵達がツテを頼って信長の初陣に参加した将と会い、その話を聞いているのです。
「よいか、ここだけの話じゃぞ」
「判っております」
「竹姫は本当に一振りで大手門をこじ開けた。見ていた某も夢を見ているのかと思うほど、恐ろしい怪力の持ち主じゃ」
「誠で!」
「ここでお主に嘘を言ってどうなる」
那古野の武将達は口々に自らの活躍を言いふらしますが、実際は刀を一度も抜かずに終わったのです。
そんな事を大声で言える訳もありません。
その話を聞いてきた者が、清州の兵にその話をする。
矢面に立たされる将や兵は怯えているのです。
命が惜しい武将は主人に刀を返すと言って出陣を拒みます。
将も兵も集まらない城主は大善らが大丈夫と言っても賛同できる訳もなく、こうして、軍議を何度も繰り返しているのです。
「ええぃ、口では大層な事をいいながら、命を惜しみよって」
「「「「申し訳ございません。然れど、ご理解下さいませ」」」」
大半の城主がこれでは、討伐の決行日が決まりません。
もう最初の軍議から1ヶ月が過ぎ、未だに決行日が決まらないのです。
日々、三カ国から催促の手紙が届くのです。
信友は思うのです。
赤鬼が怖くないと言うのであれば、先に三カ国が織田を攻めればいい。
我々はガラ空きになった尾張を頂く事ができる。
口で強気な事を言っても、三カ国とも赤鬼と戦いたくないのだ。
冗談ではない。
誰が赤鬼などと戦うものか!
今日も軍議が終わって、信友はほっとします。
このまま決まらない方がいいと思うのです。
俺はまだ死にたくない。
◇◇◇
【 織田信秀と
甲賀の長盛から清州の軍議の結果を聞いて信秀が激怒します。
「ここまでお膳立てをしながら決行できんのか!」
「残念ながら、また5日後に話し合う事となりました」
「岩倉の家老共と
(信康は信秀の弟で岩倉の家老であり、犬山城主です)
岩崎城の丹羽氏勝には、本郷城の
さらに水野信元を使って、山口親子と笠寺が蜂起する段取りも付けました。
山口親子が織田に不満を持っている事は知っていました。
古渡城から末森城に居城を移した事で、鎌倉街道から飯田街道へ主要な物流が変わってしまいました。
つまり、末森への移転を反対していたのです。
さらに那古野城の改築で沸く熱田に対して、笠寺や鳴海は取り残されていると感じていたのです。
要するに、おこぼれが少ないと不満を漏らしていたのです。
鳴海は末森の配下で那古野に所属していないのですから仕方ない事なのです。
さらに同じ知多でありながら佐治の繁栄を憎たらしく思っていたのです。
漁獲量の大幅アップ、海苔やカキの養殖、内陸部も蜜柑や梅の木を植えて、開発が進んでゆきます。
知多半島でぽつんと取り残されているのです。
信長ちゃんに頭を下げるのは、末森の馬廻衆というプライドが許さないのでしょう。
そうして不満を貯めていたのです。
鳴海城主の
しかし、
甲賀とか、伊賀とか、縦横に網を張っていたので信秀の知る所となったのです。
馬鹿な奴だ。
知った時、信じられないと信秀のおっさんも思ったものです。
教継は少し頭が切れ過ぎたのでしょう。
それはともかく、信秀の手札が無くなってきました。
外から三国が攻め、尾張の内部も四カ所同時に蜂起が起こる。
それでも足りないと言うのです。
「後は信元を寝返らせる他に手がないぞ」
「水野様も首を縦に振りますまい」
「ならば、他に打てる手がないであろう」
「余り露骨にされますと、今川に勘づかれます」
「口惜しいのぉ」
「忍様が申されたように、力で強引に簒奪されては如何ですか」
「それは駄目だ」
「何ゆえに」
「信長が天下を統一した後に『織田は主家を滅ぼして、天下を取った』と言われてしまう」
「いけませんか」
「ならん。儂がどれほど悪口を言われても構わぬ。儂は武王で良いが、信長は文王でなければならん。そうでなければ、天下が治まらん」
長盛は静かに頷いた。
信秀はすでに勝った後を見据えていた。
しかも忍様は直接の戦いに参戦しないと断言している。
織田単独で勝てるのか?
単純な数では圧倒的に不利です。
負けるとは思いませんが、勝てるのでしょうか?
長盛は少し首を捻っていました。
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