第16話 信行、脇差で忍の腹を刺したの事。

ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっぁlあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっぁ!


どこかで聞いたような叫び声を聞こえます。

甲賀の上空5,000mです。

私だって、こんなつもりじゃなかったんだよ。


11歳の子供と思って優しく丁寧に接していると図に乗って!


悪い子にはおしおきです。


限界高度3,000mを超えた5,000mですよ。


そんなに息を吐いたら酸素欠乏で目眩が襲って来ても知らないよ。


「やっぽぉ~なのです」

「今日は絶景です」

「雲1つなく、水平線がはっきりと見えますね」

「うっすらと丸みがあるのが判るのです」

「地球はやはり丸いです」

「そうみたいね」


信長ちゃんをはじめ、藤八、弥三郎、千代女ちゃんとウチの子らは慣れたものです。


「あちら今川の駿河で、隣が甲斐と北条でしたな」

「その向こうが奥州だ」

「逆側が四国、中国、そして、九州か」

「三好、尼子、大内、そして、大友ですね」


橋介、飛騨守は久しぶりな気がする。

食事の時は顔を出しているけど、基本的にこの二人は信長ちゃんに付いているからね。

長門君は今日もお留守番だ。


信長ちゃんと長門君の二人が那古野から居なくなると、那古野の機能が止まってしまうんだよね。


「信長様、蒸気を作って飛行機を完成させるのです」

「落ちるのではなく、飛びたいです」

「確かに蒸気は急ぎたいですね」

「そして、ロケットを作って月に行くのです」

「ロケットに乗って、かぐや姫に会いにいきましょう」

「ロケットより無煙火薬が先です。固形燃料などその先です」


藤八と弥三郎のマイブームは海賊から〇〇兄弟に移ったらしく、月に行きたいらしい。

そして、かぐや姫に会うらしい。

絵草紙とおとぎ話がごっちゃになっているよ。


でも、言っている事が妙に具体的になってきたね?


私は知らなかった。


私が作った大量の絵草紙が那古野城に従事する者の間で広まっている事を、さらに倉街で写本されて、倉街と出島に出回って忍家臣団が魔改造されている事を知らなかった。


寺小屋では、絵草子を教材に21世紀の知識が刷り込まれてゆく子供達を増産している事も知らなかった。


「ミサイルでずばばばばんなのです」

「レールガンでズキュ~ンです」

「レールガンは無理ですが、花火を改良して迫撃砲は作らせています。完成したら、みんなで試射を見にゆきましょう」

「わぁ~いなのです」

「楽しみです」

「信長、信管が完成したのか?」

「信管はまだ無理ですね。花火と同じ導火線で調整します」

「ダセぇ!」

「慶次、そう思うなら自分で造れば?」

「俺がそんな細かい作業ができる訳ないだろう」


おかしい?


スカイダイビングを楽しみながらするような会話じゃない。


うおぉぉぉぉ、柴田のおっさんも大きな声を上げている割に楽しんでいるようだ。


マジで泣いているのが信勝だけか!


下で待機している忍者組が見えてきた。


 ◇◇◇


時間は少し戻って!


「信長様、急なお出掛けとはどういう事ですか?」

「長門、すまん。信勝の一大事じゃ。目を瞑ってくれ」

「信勝様の話は聞いております。しかし、それはご本人が解決する事であり、信長様が出しゃばる事では御座いません」

「忍様にもそう言われた。しかし、放ってはおけん。すまん。行かせてくれ」

「で、護衛はどうされます」


長門君は意味もない事を聞いてくるな。


「判っております。忍様がいる以上、信長様に危害が及ばぬ事は判っております。しかし、ご当主が護衛も付けずにお出掛けになるのは体面が悪いのです」

「仕方ないな! 望月 長重もちづき ながしげ土山 時雨つちやま しぐれ百地 三太夫ももち さんだゆう千賀地 保元ちがちし やすもと藤林 保豊ふじばやし やすとよ瓢 八瀬ふくべ やせ鉢屋 久月はちや ひさつきは、影からでなく馬に乗って同行するように!」

「「「「「「「はぁ」」」」」」」

「上忍7人も要れば、いいかしら!」

「判りました」



信長ちゃんの小姓として長谷川 橋介はせがわ きょうすけ山口 飛騨守やまぐち ひだのかみ佐脇 良之さわき よしゆき加藤 弥三郎かとう やさぶろうが同行し、私と滝川 利益たきがわ とします柳生 宗厳やぎゅう むねよし望月 千代女もちづき ちよじょの4人が加わる。


以上、護衛が15名です。


上忍7人と慶次様と宗厳様が加われば、最強タッグじゃないでしょうか?


甲賀望月、甲賀土山、伊賀百地、伊賀千賀地、伊賀藤林、飯母呂瓢、鉢屋の頭領が動けば、最低でも3人以上の護衛が付きます。


しかも手練ればかりです。


一軍団に襲われても余裕で勝ちそうですね。


えっ?


柴田が入っていない。


ゴリラはノーカウントです。


「お待ち下さい」


馬で駆ける集団を前田 利家まえだ としいえが追い駆けてきます。


走れ犬(メロス)!


 ◇◇◇


「出て行け! 俺に構うな」

「勘十郎様、どうか皆に顔を出して安心させて下さいませ」

「どうせ、皆で俺を笑う気だろう。騙されぬぞ」

「入るよ」


襖を開いて、信勝の部屋に乱入する。


「勝手に入ってくるでない」

「嫌なら実力で排除しなさい」

「この鬼風情が!」


私は信勝の奥襟を持って外に出た。


「しばらく、お仕度をさせて頂きたい」


丸腰でいいんじゃない。

柴田のおっさんは過保護だよ。


馬に乗せて城を出ると、信長ちゃんがいる事に気が付いたようだ。


「兄上、俺を笑いに来たか」

「このぉ、ばかちん」


ぽこぉ、軽く信勝の頭を殴る。

凄く痛そうな涙目で私を睨んでいる。


軽くだよ。


「信長ちゃんはあんたが引き篭もっているって聞いたから心配で見舞いに来てくれたのぉ。お礼をいいなさい」

「嫌だ。心の底で笑っているに違いない。情けない俺を見に来ただけだ」


捻くれているね!


「視察に行くよ」

「どこへ」

「自分が陥落させた領地くらい自分で見なさい」


向った先は東尾張、赤池、浅田、折戸、本郷、藤島、藤枝の6カ所だ。


「織田普請が始まって、みんなの顔に笑顔が走っているでしょう」

「何故、勝った織田が何故に銭をばら撒く。これでは勝った意味がないだろう」


【 勝つ 】 = 【奪う 】


勝者は敗者から奪うのが常識だ。


しかし、織田では勝った織田が銭をばら撒くという奇妙な光景が広がっている。


新たに臣従した赤池、浅田、折戸、本郷、藤島、藤枝の六城の堀を織田の銭で行っている。


食うに困っている農民が普請に参加して銭を貰う。


賦役の手間賃は普段の倍だ。


各城に黒鍬衆が200人ずつ手当されて、集まって来た人夫を使って作業を進めている。


その銭を当てにして、行商がやって来て食い物などを売っている。


昼飯まで織田が支給するから人夫に笑顔が漏れる訳だ。


馬を降りて作業場を回りながら、織田の政策を説明して上げる。


「それでは、織田は丸損ではないか」

「城の強化が終わったら農地を開墾する。収穫の2割は織田に入るよ。長い目で見れば、黒字になる」

「普請など強制させればよい。織田が金を出す意味が判らん」

「織田に付けば、いい暮らしができる。そう思わせれば、織田を裏切る百姓がいなくなるよ。領主が騒いでも兵は集まらなくなる」

「百姓など脅せば、何とでもなる」

「その百姓に裏切られて、負けたのは誰かしら?」


そう、信勝は中華の旧式鉄砲の音一つで百姓に裏切られて負けを喫した。


いくら叫んでも逃げ出す百姓達を留める事ができなかった。


ぐぅ、拳を強く握って悔しさに耐えている。


「兵の8割は百姓と金で雇った加世者なのよ。力で引っ張れないなら、人柄で引き付けなさい。士気を維持できない将は戦いに勝てないわよ」

「何を偉そうに」

「敵を知り己を知れば百戦危うからずって言うでしょう」

「知っておるぞ。らんどが言っておった。百姓達の士気が低いかったのは鬼を恐れておったからだと、お主が後ろから糸を引いておったのであろう」

「馬鹿らしい。あなたが岩崎城を落とした後に鬼退治に行くとか言ったからでしょう」

「悪い鬼を退治に行くと言って何が悪い」

「何も悪くないわよ。あなたが桃太郎のように強い事を皆に見せていれば、同じ結果にならなかったでしょう。あなたが弱すぎるせいよ」

「俺が弱いと言うか!」

「弱いね!ぜんぜんよわいー!」


私ははっきりと言った。


ここで優しくする事に意味がない。


信勝が歯を食い縛り、私を睨み付ける。


虚栄心だけは大きそうだ。


「竹姫殿、それは言い過ぎでございます。勘十郎様はまだ11歳でございます」

「年は関係ない。信長ちゃんも12歳よ。でも、三河の七領主を仕切ってみせたわ。自分が弱いなら代わりを立てなさい。柴田を先鋒に立てて、数を頼りに兵の士気を上げればいいのよ。無意味に兵を二つに割ったのが敗因よ。兵の様子を見てないから、そんな頭でっかちな用兵になってしまう」

「3倍の兵を要し、挟撃はけっして悪い策ではございません」

「あなた達がそうやって甘やかすから、無能な将に為り下がるのよ」

「俺が無能だと言うか」

「言われたくなければ、武功の1つでも立ててから威張りなさい」

「ならば、今立ててやるわ」


信勝は脇差を抜くと私の方に向かってきた。


反射カット!


“YES、マイ、ロード”


ずばぁ!


「勘十郎、何を致す。血迷ったか!」


信勝の脇差は私の着物を割いて腹に突き刺さる。


痛っ、刀の先がちくちくして痛いよ。


私が顔を歪めた事に信勝は勝ったと確信したのか、笑みを漏らす。


『このぉ、ばかちんが!』


大阪名物ハリセンチョップが信勝を襲う。


高速のハリセンが信勝を捉え、一瞬で数百メートル先に吹き飛ばされる。


でも、大丈夫!


仕様は変更した。


物体に衝突する瞬間、再転位で物理エネルギーをゼロになるようにしてある。


ちょこんと落ちた衝撃しか、本人は受けない。


凄まじい移動速度と軽い衝撃に頭が混乱するくらいだろう。


本来なら恐ろしい速度で地面にぶつかって大根おろしのようにぼろぼろになるハズが、チョコンだ。


???


信勝は混乱している。


何が起こったのか、判らないという感じだ。


私はゆっくりと近づいて腕をまくる。


「もし、私に傷1つでも付けられたら、織田から出ていって上げる」


信勝は私の挑発に乗った。

立ち上って私の腕に刃を放った。


ちょっと痛いけど、もちろん傷1つ付ける事ができなかった。


『おしおきタイムだ』


最初に戻って、上空5,000mに放り出した。


ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっぁ!


1,000m、500m、200m、100m、10m、1m、そして、地上10cmで再転位させる。


地上すれすれ!


「わぁ、びっくりした。心臓に悪いわ」

「にゃんと空中三回転なのです」

「新月面宙返りで10点満点」


二人は余裕もありそうだね。

千代女ちゃん以外、ウチの子らは割と平気だ。

信長ちゃんも普通に着地したよ。


今日は気が済むまで何度でもやって上げる…………と思ったけど、余程、怖かったのか?


「だらしない。まだ、2回目よ」

「お願いします。許して下さい。何でもします。お願いします。許して下さい。何でもします。お願いします。許して下さい。何でもします。お願いします。許して下さい。何でもします」


私と目も合わせずに、ぶつぶつと呟くようにそう何度も言った。


「恐怖の芽を魂魄に刻み込んだみたいだな」

「うん、もう逆らう気もないでしょうね」

「流石です」

「忍様は凄いのです」

「最高です」

「忍様、これでは悪化していますよ」

「は、は、は、どうしよう」


私の命令で日々の日課で各城を巡回し、民の状況と問題点を沢彦和尚に報告せよと命令した。


信勝は目を合さずに「やります。絶対にやります。ですから、お許し下さい」と言って快く了承してくれた。


沢彦和尚にしたのは、信勝が私に会いたくなさそうだからだ。


これで信勝の引き篭もりは解決だ。


これにて、一件落着!

裏切り者に死を!


津々木 蔵人つづき くらんどなど他の傅役をはじめ、信勝を盛り立てる家臣団から糾弾を受けた。


「信勝様、お気を確かに!」

「竹姫に逆らってはならない」

「勘十郎様、私達の目を見てお話下さい」

「竹姫は恐ろしい方だ」

「「「「勘十郎様」」」」


引き籠りは解決したが、私に逆らうという気概を失った。


権六は私に信勝を売った裏切り者らしい。


柴田のおっさんは傅役を解雇され、末森城からも追い出され、利家と一緒に私を見守っている。


とほほほ、ストーカーが増えたよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る