第8話 織田の新領地の事。
「でぇ、でっかいな!」
シドニーに造った真っ白なお城を見た
赤鬼一揆から尾張一向宗も沈静化を見せると、色々な所を回り終えた言継がごねた。
「わても手伝ってんからご褒美頂戴やぁ!」
「お酒ならもうないからね」
「そんな殺生な! ただ働きかいな」
「あげたくてもないのぉ。一ヶ月くらいは待ちなさい」
「しゃないな」
ここで終わらないのがこのおっさんの強かさだよね。
私が駄目と思うと他を崩しにかかるんだ。
「なぁ、おチビちゃん。おもろい事なんかないかな」
「うぅ~~~~ん、別にないです」
「特にねぇな」
「赤鬼一揆よりおもしろい事ないと思います」
「です」
「そか、しゃあないな。美味しい物とか、変わった料理は覚えていないか?」
「この前のピザは美味しかったです」
「ぴざ?」
「
「志土仁、ピザ、なんやそれぇ!」
「こらぁ、このおっさんに余計な事を教えるんじゃない」
このおっさん、恥も外聞もないな。
公家でしょう?
偉い人でしょう?
見事過ぎるジャンピング土下座を藤八と弥三郎が真似ちゃうじゃない。
「なぁ、なぁ、連れっててな! 何でもするから。お願いしますわ。後生や。わてを捨てんといて」
ちょっと黙ろうか!
滅茶苦茶、私が言継をもて遊んで捨てているように聞こえるでしょう。
世間体が悪いわ!
そう言う訳でやって来ました。
サウスヘッド。
「でぇ、でっかいな! こっちは断崖かいな。海が広いな。えらい涼しいとこやな」
美しいシドニー湾とシティーの遠景を存分に眺められる絶景スポット。
そこから見えるシドニー湾の奥にどこかのテーマパークのようなお城が建っている。
イメージがズバリ『モンサンミッシェル』です。
断崖絶壁の上に、白い外壁が雲のように見え、その上により一層高く聳える天空の城です。
私とAIちゃんが叡智を注いで造った一品よ。
シドニーはリアス海岸の湾が広がっており、そのシドニー湾に入ってきた船がはじめて見るのが、巨大な白い城です。
入江から突き出た岬1つが、まるまるお城なんて度肝を抜かれるでしょう。
「あはははは、どうだ我が戦力は!」
ぴゅ~~~ぅと体に吹き付ける肌寒い風は仕方ない。
こっちは冬だからね。
「じゃぁ、玄関に移動するよ」
「「は~い」」
最近、藤八と弥三郎が小学生に見えてきたよ。
8歳と9歳。
小学2年と3年、間違ってないか!
「忍様、ようこそおいでくださいました」
「結ちゃん、ちょっとだけお世話になるね。このおっさんに織田の新領地を見せたらすぐに帰るからさ」
「では、展望台に行かれますか」
「そうだね」
シドニー城の最上階のバルコニー!
シドニー城を造ってから気が付いた。
ここを利用する人は上り下りが大変だ。
「私達は最下層の使用人部屋を使わせて貰っていますから、その苦労はありません」
「結ちゃんが領主なんですよ」
「滅相もない。領主代行に過ぎません」
戴冠式とかするのかな?
自分で作っておいて何だけどさ。
最上階の広い大広間からバルコニーに出る事ができます。
そこからシドニーが一望できます。
北側にはマイビーチ。
バルモラルビーチよ!
砂浜しかないので他に使い道がない?
何、言っているの。
夏にはみんな連れて来て海水浴に使うのよ。
漁船を置いて漁場にしようかと言う意見もあったが、それは断固拒否だ。
『マイビーチを穢してはならない』
そう言い切って、何も作らせていない。
漁業基地なんて、津波が来ても安心な奥に作った方が良いんだよ。
と言う訳で、主要な蔵や港は入り江の奥、外海に遠いお城の西側あたりに集約している。
さぁ、バルコニーの扉を開こう。
「なっ、なんやこれ!」
「小麦畑です」
「壮観ですね」
「緑一色です」
「滅茶苦茶、広いやんか。ありえへんで」
シドニー湾を挟んで南側に見えるのが一面の小麦畑です。
「これ、ホンマに小麦畑か?」
「これが8月には金色の小麦畑になるそうです」
「待ちどおしいです」
「うどん、すぱげてぃー、ぱん、いっぱい、いっぱいできます」
「今でも食べているじゃない」
「新麦で採れたてがいいんです」
「誰が言ったの?」
「千代女さんです」
「納得」
「おいしいのです」
「おいしいよ」
小麦畑が南北10km、東西30kmに広がります。
約300平方キロメートルは、京の都もすっぽりと入ってしまう広さです。
一町 = 10
3万町 = 30万石
「3万町やて!」
「石高に換算すると、30万石になります」
「小麦とお米では石高にすると違うのでは?」
「細かい事は知らないよ」
「山の向こうで別の田んぼも作っています」
「向こうの田んぼも大きいです」
「ここと同じくらいあるね」
「北の大麦や南のトウモロコシを全部合わせると100万石くらいになると思うよ」
(連作障害が怖いからローテーションだね)
「シドニーは冬ですから春まで待って、稲の苗を植える予定です」
「待ちどおしいのです」
「お米もいっぱい取れます」
「ぶどうの木やみかんの木も植えています」
「実がなったら食べましょう」
「きっと、おいしいのです」
「ぶどうもみかんもいちごもあります」
藤八と弥三郎の何気ない説明に言継の心が揺れている。
見渡す限り畑って、日本じゃ中々お目に掛かれないからね!
◇◇◇
見学を終えて、下におりると城外で格闘戦が始まっています。
「何、やってんねん?」
「模擬戦です」
「慶次さんと宗厳さんは凄く強いですよ」
「千代女さんも強いです」
「今日はいないけどね」
信濃の調略に意外と手間取っているよね。
(1週間程度で調略できると考えている方がおかしいのです)
「僕たちも参加してきますのです」
「行くぞ、藤八」
「待つのです」
あの二人は仲がいいね!
「この模擬戦も恒例になったね」
「はい、忍様の人徳のお蔭です」
「じゃあ、私達はバーベキューの準備でもしようか」
「はい」
「ぴざも忘れんといてや。わて、模擬戦を見てくるからな」
「あれで公家って言うんだよ」
「ふ、ふ、ふ、楽しいお方です」
「結ちゃんは優しいね」
「そんな事はありません」
そもそもシドニーを開拓しようと考えたのは、オーストラリアが誰もいない無人の大陸と勘違いしていたのよね。
ふしぎな島の〇〇ーネで「未開の大陸」って言っていたんだよ。
私って、素直だったのよ。
私がそう言ったら、その言葉に千代女ちゃんはすぐに突っ込んだ。
「単なる不注意よね」
「それを言うな」
「慶次だって、そう思うでしょう」
「そりゃな」
「忍って、抜けているのよね」
「まぁ、忍だからな」
「私に聞こえないように言ってくれるかな!」
あぁ、何もかも懐かしい。
そう、この会話は結ちゃん達をオーストラリアに最初に連れて来た時の事だ。
シドニーの開拓もある程度進んだ事で、管理者に飯母呂一族から10人、川原者で若く働き者の100人を選抜して連れてきたんだ。
転移を終えて出てすぐ。
先住民のアボリジニが私達を取り囲んで拝礼をして来たんだよ。
そりゃ! もう、びっくりだよ。
誰もいない大陸じゃなかったの?
頭の中で何度も叫んだよ。
ミクロネシアとか、原住民がいるのに巨大なオーストラリアに先住民がいない訳がない。
アボリジニって、先住民がいた訳です。
どうして検索しなかった!
私が転移で行くのは真夜中です。
洞窟みたいな横穴を住居としているアボリジニに会わないのも仕方ないのです。
気が付かないのも仕方ない。
「二日目から普通にいたよね」
「あぁ、いたな」
「危害を加えてこないから放置したけどね」
「どうして教えてくれないのよ。藤八と弥三郎は知らなかったわよね」
「慶次様が注意しておけと言っていたのです」
「一応、気にしていましたが」
「おぉ~のぉ~!」
宗厳様が知らない訳がない。
余計な事はしゃべらない性格だ。
知らなかったのは私だけかよ。
それで、千代女ちゃんは「忍びよる恐怖」って、私の名前を掛けて怪談話をしていたのか!
取り囲んだアボリジニに敵意はありません。
でも、後方に私達を睨み付ける者もいた訳です。
「あの人達は?」
「あなた様が導き手でないと疑っている者です」
「別に導き手じゃないと思うけどね」
「いいえ、導き手に違いありません」
「で、あの人達は何を言っているの?」
「強き力を示さない者を信じないと」
私が族長と話していると、慶次様が向こうに歩き出した。
「やりたそうだから遊んでくる」
「怪我するわよ」
「大丈夫、大丈夫」
「拙者も付き合って参ります」
言葉も判らないのに何となく判るんでしょうか。
慶次様が敵の代表と戦って、ブーメランみたいな武器で意表を突かれて負けた。
でも、その後に宗厳様が勝って認めて貰ったようだ。
悔しかったのかな?
慶次様は再挑戦したけど向こうも腕に自信がある奴が割って入ってきた。
『100人組手』
エンドレスに続く模擬戦を私達はそう呼んでいる。
無敗の宗厳様に誰が土を付けるのか?
千代女ちゃんや藤八と弥三郎も参戦して、酒や肴を振る舞うと一気にお祭りみたいになった。
でも、最初にお酒を出してあげると、みんなむせって大変だった。
アボリジニのみなさん、信長ちゃんと同じ下戸だったのです。
知らなかった。
ごめんなさい。
お酒の文化を伝えちゃった。
呑む人は、宗厳様くらいしかいないのに…………癖になっているな!
忘れよう。
うん、時間の問題だ。
私は悪くない!
・
・
・
みんな、和んでしまったよ。
あんちょこ翻訳草紙を作って上げて、カタコトながら会話を始めた。
結ちゃんに5000人の家臣ができた訳だ。
広大な農地の管理も何とかなりそうなんだけど、横穴式住居じゃ拙いよね。
ふ、ふ、ふ、『一夜城』を造り上げ、城の中にアボリジニら5,000人が暮らせる家を提供してみた。
こうして、先住民のアボリジニの5,000人を臣下として迎え入れた。
「ねぇ、結ちゃん。なんか増えていない」
「周りの部族の方も集まって、10,000人くらいに増えています」
「家を増やそうか?」
「それには及びません。道具はありますから、城外に村を自分らで作らせています」
知らない内に、結ちゃんは立派な領主になっていた。
で、1つだけ誤算。
シドニーは尾張の食糧庫として利用するつもりが、5,000人の家臣を入れてしまった為に食糧消費地になってしまった。
わはははぁ、逆に食糧を貢ぐハメになっちゃたよ。
収穫が安定するまでだけどね。
生産力が凄いけど、消費量も半端ない。
収穫期が来るまで辛抱だ。
一大農産国へ変貌するシドニー。
「申し訳ありませんが、馬や牛も飼いたいのですがよろしいでしょうか」
「カンガルーだけじゃ、足りないよね。判った用意するよ」
「ありがとうございます」
結ちゃんの希望で、今度は馬や牛や羊を調達しなくちゃいけない。
羊は言っていないって?
オーストラリアと言えば、羊でしょう。
世界第2位の羊大国ですよ。
1788年にフィリップ総督がオーストラリアに入植したときに連れて来たのが始まりといいます。
羊の話はそれくらいでいいでしょう。
私は水田はこれ以上増やさないと言っています。
オーストラリアは雨量が少なく、内陸部は乾いた大地で占められているんだよね。
土地は余っているけど、水は足りない。
耕作地が東側に偏り過ぎているんだよ。
馬や牛や羊を飼うのは草原のある少し内陸地がいいけど、中央まで行くと草木が減ってしまします。
シンブドソン砂漠、クレート・ビクトリア砂漠、グレート・サンディー砂漠と3つの砂漠がマクダネル山脈、マスグレープ山脈を覆うように存在します。
土地は広くても住める場所は少ないと言う事です。
大陸の真ん中に琵琶湖でもあれば、変わっていたんだろうね?
今、なんか閃いた。
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