第4話 七瀬祓いの事。
三河で『赤鬼一揆』を鎮めた、誰だよ『赤鬼一揆』と言った奴は!
ともかく、翌日の昼ごろまで怪我人の治療に掛かったよ。
流石に信長ちゃんらを留めておく訳にもいかないので、一度お風呂に戻った時に置いてきたよ。
えっ、お風呂って絶対かって!
絶対だよ。
那古野城に戻ってきた私が何をしたのか!?
「起こした奴は反革命罪で銃殺! 敵襲以外起こすな!」
そう言って昼寝をした。
◇◇◇
ずっと待っていてくれたようです。
冗談ですって!
銃殺なんてしませんよ。
もう日が傾きかけた頃、信長ちゃんに連れられて林秀貞と平手政秀が重苦しい表情で入って来た。
「この度の事案において、多大なる尽力に感謝いたしまする」
いつもどこか偉そうな林のおっさんが神妙な顔付きで頭を下げる。
「私は何もしていないわよ」
「そうでは御座いますが、事はすでにほとんど終わっておりまする」
林と平手は早朝から長島、瀬踏、河野を巡って来たようだ。
長島の寺々にはけんもほろろに追い返され、沖島を返還しないと天から火の玉が落ちて尾張を焼き尽くし、大地を割って水が吹き出し、すべてを水没する事になるだろうと、二人を脅したらしい。
「ねぇ、天から火の玉って、花火の事?」
「判り申しません」
「で、大地から水が噴き出すのは?」
「桑名の山奥、
あぁ、それか!
「その新しくできた員弁湖の水が沖島の水源ね。日照りとかで湖が空になると沖島に水が来なくなるから、その時は諦めなさい」
まあ、すべての水源を木津川で賄えるなんて考えていませんよ。
さらに沖に作る島の源泉は琵琶湖の西、亀岡の上に湖を作って、バイパスを通しておいてから送水するつもりと決めている。
私だってちゃんと考えています。
もう慶次様に行き当たりばったりとか言わせませんよ。
何か知りませんが、林のおっさんと平手のじっちゃんが固まってしばらく動きませんでしたが、気を取り直したのか、再起動しました。
そう、本證寺の空誓が長島の寺々、尾張の瀬踏7門徒、美濃の河野九門に手紙と使者を送って、私は弥勒菩薩の化身だから決して楯突かないようにと、本證寺の僧侶が奇跡の一部始終を言い聞かせたようです。
「そこで瀬踏7門徒、河野九門が言いますには、長島は鬼と呼び。三河は弥勒菩薩と呼ぶ。我々は如何に判断すべきかを迷っておると申すのです」
「まわりくどい」
二人が顔を会わせて平服します。
「尾張の事は織田で何とかせよと言う御下知でございますが、我々に天上の芋焼酎を少しだけお分け頂けませんでしょうか」
「へぇ? どうしてここで芋焼酎が来るのよ」
「空誓様の手紙に、山科言継卿の添え状があり、そこに竹姫は悪しき者でない事をつらつら、さらに、天上のこの世の物と思えぬ芋焼酎を持たれ、その呑んだ心地は天界に赴くように清々しかったとなどと書かれていたそうです」
「ほとんど、酒の話しか書いてなかったとも」
言継のおっさん、どんな手紙を書いたのかな?
「瀬踏7門徒、河野九門が申しますには、一口呑めば、善か、悪か、判断できるハズと。どうか少しでいいので御分け頂きたいと泣き付かれました。お願いでございます。お分け下さいませ」
瀬踏7門徒、河野九門は酒をくれたら、織田に味方するって?
みんな、呑んべばっかりだ。
◇◇◇
言継のおっさんが試作の芋焼酎を全部呑んだので、出島の甲賀宅を訪ねるしかない。
「悪いね。分けて貰って」
「お役に立てて、嬉しい限りでございます」
芋焼酎は麹造りに2日、一次仕込みで6日、二次仕込みで10日と書いてあるけど、この麹造りから壁に突き当たった。
芋にしろ、米にしろ、焼酎は戦国時代に輸入された物だから、焼酎作り職人なんていない。
酒を造った事がある甲賀忍を責任者にして、焼酎に挑戦して貰った。
動画を一緒に見て貰って、種麹の作り方を研究し、後は丸投げ。
白米から麹菌が作れるようになるまで半月も掛かった。
後はサツマイモを蒸して、蒸した芋と麹菌米を一緒に入れて発酵です。
10甕作って、巧く発酵したのが2甕のみです。
お酢に近くなったり、雑味が多すぎたり、1甕ずつ色々試したのよ。
「しかし、申し訳ありません。半分以上、呑んでしまって」
「味見させるように言ったのは私でしょう」
今は成功した2甕の方法で、2周目に入っている。
これに成功すると、熱田と津島の蔵で生産が開始される。
問題はモデリングで水分を飛ばし、アルコール度数90度に仕上げると、量が5分の一、嫌ぁ、7分の一に激減してしまう事だ。
1甕一升瓶で10本しかできなかった。
半分なら5本分しかできない。
最初から16寺16本も不可能な訳だ。
一寺当たり500ccだ。
ミロのビーナスをモチーフにガラスの瓶を作って芋焼酎を入れて、仰々しい木箱の中に綿を敷き詰めて、酒の瓶をそっと置いて平手のじいさんに持って行かせた。
「なんと美しい容器だ」
「まさにこの世の物でありません」
「ご住職、まずは味見を」
「毒見は私が」
そんな感じのやりとりが起こったらしい。
平手のじいさんが来年になれば、もう少しまとまった量をお届ける事ができると伝えると、瀬踏7門徒、河野九門が連名の『織田御免状』を書いてくれた。
『
(七瀬を払いに行くのは、苦悩の道だが、妹と手を繋いでゆくなら)
何々、愛する(芋焼酎)と一緒なら、七瀬祓いの苦悩(九門)の道に進むのも怖くない。
人々がそうヤジっているよ。
臣従と言わず、『織田御免状』という当たりが、粋なんだろうか?
◇◇◇
【 林秀貞と平手政秀 】
那古野城の一室で寺々を回ってきた政秀を秀貞が労っていた。
「お役目ご苦労であった」
「いやいや、ただ運んだのみ」
「しかし、『織田御免状』とは、大層な物を頂いたな」
「呼び出されたので、何事かと慌てましたぞ」
すべての芋焼酎を配り終えてから数日後、那古野城に使者がやって来て、了泉寺に来て貰いたいと政秀を指名したのです。
行くとびっくりです。
瀬辺七門徒、河野九門徒の住職の他に、川並六坊、濃尾十八門徒も座っており、『織田御免状』を瀬辺七門徒、河野九門徒の連名で差出、その証人として、川並六坊、濃尾十八門徒の住職の名を連ねているのです。
尾張・美濃の浄土真宗の寺が織田のする事をすべて認めると言っています。
自分達が法王とするなら、織田にすべて任せると『白紙委任状』を渡したと思えばいいでしょう。
事実上の臣従です。
条件はただ1つ。
毎年、天上の酒を奉納する事です。
「酒の為にすべて捨てるか」
「何でも、尾張が一向一揆を起こすなら、三河が尾張に押し入ってでも相手致すと空誓様が脅してくれたようです」
「尾張一向と三河一向の戦いか!」
「尾張にすれば、勝って当然の戦いですが、負ければ面目が立ちません」
「酒のせいにしたのか」
平手がゆっくりと頷き、それから予備の酒瓶を取り出します。
「一献、如何ですか」
「これは?」
「万が一、贈り物が割れた場合の予備です」
コルクを抜いて、盃に芋焼酎を注ぎます。
「「イザぁ」」
呑んだ瞬間に目を見開いた。
「これは!」
「確かに戯言を言っても咎める者はいませんな」
「値は如何ほどに」
「値など付きません。付きようもありません」
竹姫が言うには、本来10年壺で寝かして濃くなった焼酎を、蒸留酒(99.9%)で薄めると完成するらしい。
「来月になると、また少しできるそうです」
「今後は川並六坊、濃尾十八門徒に配る訳か」
「そう言う事になりますな」
「これは欲しがる者が後を絶たんな」
「山科卿が同じ物をお上に送ったそうだ」
「いかん、それでは儂らが呑む分がなくなってしまう」
「あと、1杯のみですぞ」
「嫌ぁ、せめて後、2杯」
「大殿の分が無くなってしまいます」
「それは残念だ」
何やら、一向宗はうやむやになったようです。
それより次の酒がいつできるかが問題らしいのです。
こっちは静かで丁度いい。
でも、みんな、酒好き。
戦国時代の武将が早死になのは、酒を飲み過ぎたのが原因だよ。
私、呑まないから知らないけどね。
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