第2章『尾張統一、世界に羽ばたく信長(仮)』がはじまります。

第0話 プロローグ

佐々木忍、17歳。


どこにでもいる普通の高校生だった私は、何の因果か、あこがれの戦国時代にやってきた。


やって来たのは武田軍の攻め入る信濃佐久郡。鬼気迫る武田軍を必死に追い払った。


魔法使いのおじいちゃん、もう少しマシな所に転移してよ。


気を取り直した私はあこがれの慶次様に会おうと尾張に転移、そこで出会ったのが、大嫌いだったハズの織田信長だったのです。


12歳の信長ちゃんは、私のハートにずっきゅん!


きゃあぁぁぁぁ、可愛い。


戦国一の美女とうたわれたお市ちゃんのお兄ちゃんだ。


どうして、美人揃いの兄妹が美形だと気づかなかった。


私の馬鹿、馬鹿、馬鹿!


うん、よし決めた!


信長ちゃんを再教育して、私好みの戦国武将にしてみせる。


そう決心したのです。


まぁ、しばらく信長ちゃんの居城である那古野城でご厄介になりながら、戦国観光を続けてゆくつもりです。


 ◇◇◇


ばさぁ~~と、障子が開けられて、日差しが私に照り付ける。

AIちゃん、転移が発動してないよ。


“前田利家ではございません”


いやぁ、どうして気がつかなかったんだろうね。


安眠妨害の利家は、慶次様、宗厳様の包囲網の穴を付いて私を襲い続けました。


「忍様、勝負」


こいつ、本当にうるさいのよ。

利家が私の部屋に入ってくる瞬間に伊勢湾に放り投げれば、安眠を妨害されないのに気がついたのは最近なんだ。


で、その利家は?


“沖島と中島の中間点に転移済です。”


今日もめげずに来ていたんだね。


「で、誰?」

「いつまで寝てる気や、そろそろ起きて朝餉あさげにしよや」

「だから、なんで?」

「昨日、熱い想いも語りおうたやん」

「覚えてないよ」

「覚えてへんって、そんな! わて、山科 言継やましな ときつぐやで、昨日ちゃんっとあいさつしたやろ」

「うん、あいさつは聞いたけど、熱い想いなんて覚えてないよ」


昨日は、言継が津島天王祭であいさつして、そのまま那古野城に付いて来た。

料理を褒めて、酒を呑んで、信長ちゃんに薦めようとしていた。


「酒はええでっせ! 酒を知らんのは人生を知らんのと同じや」


私は未成年だから飲まないよ。

信長ちゃんも呑ませない。


信長ちゃんは下戸なんだよ。


信秀はどうなんだろうね。

あまり飲めない体質なのに無理をして、肝臓を傷めて早死したんじゃないかな。


あるいは、もしかするとヤリ過ぎて腹上死だったりする。


は、は、は、末森に移ってから、やたらと兄妹が増えているんだよね。


どれだけがんばったんだよ。


で、酒、酒、酒と余りに煩いので、アルコール度数90%のテスト焼酎を瓶ごとくれてやった。


『旨い、旨すぎるでぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


結局、10本全部を空にして撃沈したよ。

90度だぞ。

どれだけ、酒好きなのよ。


で、今朝の朝餉に話は戻る。


今日は休養日だから問題ない。

普段は昼まで寝ているけど、慶次様と宗厳様は仮眠のみで一晩中付き合ってくれている。

朝の朝練も欠かしていないよ。

慶次様は不良っぽくて、いい加減そうだけど、その辺はきっちりしているんだよね。

という訳で、土曜と日曜はお休みにする事にした。

(AIのカレンダーを見てね)


ブラック企業に為りたくない。


朝餉の席に信長ちゃんがいるのは悪くない。


でも、何でこのおっさんがいるの?


「じゃけんにせんといて! というか、昨日のあれをもう一杯」

「ありません。これで我慢しなさい」


収納庫から取り出したのはぶどう酒だ。

コルクは先に外して上げた。

私って、サービスいいね。


「美味い! 昨日の喉から熱くなるやつと違うけど、それに比べると数段落ちるけど、この美味さはこの世のもんやあらへん」

「大袈裟だよ。来年になれば、尾張のどこででも呑めるようになるよ」

「ホンマか!」


2ヶ月後には熱田の蔵から清酒の第一段が発売される。

焼酎も並行して制作中だ。

麦酒、ぶどう酒などは秋から稼働できるように準備を進めている。

問題は設備じゃなく、人手なんだな。


「津島の神酒も美味いけど、あの焼酎は別物や。清酒に、麦酒に、ぶどう酒やて、尾張は極楽や」


騒がしいおっさんだ。


イッソの事、地下で実験中のバイオエタノールを飲ませてやろうか!?


死なないよね。


“人体には影響ありません。但し、純粋なアルコールです”


ですよね。


回収して来た藻を砕いて発酵させて、アルコールを作っている。

治療用のエチルアルコールを作る実験をしている。


芋でエチルアルコールを作るのはもったいない。


成功したら、他でも作らせる。

大体の知識はあるけど、酵母や麹などの現物がないんだよね。


慶次様が私をちらちらと見ている。

未来の酒豪もぶどう酒が気になって仕方ないようです。

未成年には飲ませませんよ。

<お酒は20歳になってから>


信長ちゃんを含めて、みんなで朝餉というのも悪くない。


 ◇◇◇


だっだっだっ、奥から慌てて誰かやって来た。


珍しい林のおっさんだ。


林のおっさんは膝を付いて軽く頭を下げると、信長ちゃんの方を見た。


「朝から失礼させて頂きます」

「構わん。何用じゃ」

「長島の願証寺がんしょうじ証恵しょうえを筆頭に、連名で『仏敵、信長討伐』の檄文が発せられました」


ぶぅぅぅぅぅ! 飲んでいた味噌汁を拭き出した。


「忍、穢い」

「林、どういう事?」

「はぁ、昨夜、長島にて天啓が舞い降りたそうです。信長様を誅しないと、尾張に災難が降り注ぐであろうと」

「天啓ね」


何を言っているのかな?

ヤマトタケルの意趣返し?


「百地いる」

「はぁ、ここに」


天井からすばやく降りて林の後に控えたのは、伊賀忍者の百地丹波が遣わした百地 三太夫ももち さんだゆうです。


「何か、聞いている?」

「我々の方にも同じような檄文が届いております」

「聞いてないよ」

「何分、ご起床の前でしたので、お話しする暇がございませんでしたのと…………忍様におかれましては、大した問題ではないと承知します」


あぁ、なるほど!

確かに大した問題じゃないわ。


「何を言うか! 一向宗との戦いが如何に困難なものか知らんのか!?」

「これはご無礼を」

「信長様、少しだけ話を聞いて頂きたい」


林が話し始めたのは信秀と一向衆の話だ。


若かりし信秀は公方様より石山本願寺を敵とする文が届き、尾張領内の一向宗を従えるいい機会と考えて、寺に従うように命令したのです。


これに反発した尾張一向宗は一揆を起こし、信秀はその討伐に追われました。

家臣も一揆に加わるので戦いは敵味方が混乱して膠着し、浄土宗の家臣は地獄に行きたくないので手心を加えるので、一向に治まらなかったのです。


信秀もほとほと手を焼いたと、林のおっさんは昔話をします。


「信秀様は苦渋の決断で尾張一向宗と和議を結ばれて、事を収めたのです」

「林はどうしていたのぉ」

「私は全力で信秀様に協力させて頂きました。然れど、一族郎党皆が信秀様に従った訳ではなく、親兄弟で殺し合う事となり申した。一向一揆の恐ろしい所は、敵味方の区別が付かず、親類縁者で殺し合うとなる事です」


東海道は親鸞の弟子も多くおり、浄土真宗の寺が多い。

尾張も浄土真宗の寺が軒を連ねる。


「儂はどうすればいいと思う」

「直ちに和議の使者を送り、長島と事を構えるつもりがない旨をお伝えするのがよろしいかと」

「相判った。平手と連絡を取り、家老衆を集めよ」

「ははぁ」


どたどたどたっと林のおっさんが去ってゆく。


 ◇◇◇


ぶどう酒に舌鼓を打ちながら、何も聞いていないのかと思われた言継が口を開きます。


「不思議やな」

「どうかされました」

「一向宗が動いたと言うのに、一向に慌ててへんやろ。そこの百地とか言ったか、伊賀の者やろ。伊賀と言えば、長島の信徒が多いと聞くで。それやのに、まったく慌ててへんやろ。不思議やな」

「なるほど、三太夫」

「はぁ」

「お主も浄土真宗か」

「御意」


言継が言った通り、百地も浄土真宗の教徒らしい。



「織田を裏切って、長島に付くかい」

「は、は、は、ご冗談を。我ら伊賀衆はヤマトタケルの命が一夜で作った沖島に住んでおります。タケルの命に反して、一夜で取り上げられては堪りません」


おい、そこで私を見るなよ。


確かに三太夫の頼みでシドニーなどの新天地を見せてやった。

荒地が一瞬で農地に変わってゆく様に驚いていた。

なんか、それ以来、崇められているんだよね。


「長島には縁が深い者も多いので、敢えて直接に戦うつもりはありませんが、織田と長島、どちらに付くかと言えば、我が伊賀衆は間違いなく織田に付かせて頂く所存でございます」

「ほ、ほ、ほ、伊賀は織田に付くんか」

「そうなります」

「島が一夜でできたって、ホンマか!」

「俺は知りませんが、熱田の者はそう言っています」


だから、そこで私を見るな!


「たぶん、神様も暇じゃないから、織田と長島の争いに介入しないと思うよ。第一、こんな事は天下を統一しようと思えば、いくらでも起こってくる。その都度に神様を頼っていたら、神様も織田を見限ってしまうだろうね」

「忍様が申される通りです。これは織田と長島の問題です。長門、知恵を貸せ!」

「御意」

「でも、神様の物を勝手に横領しようとすれば、天罰が下るかもしれないね」


ここで百地が頭を下げた。


もう知らないよ。


 ◇◇◇


言継にどこまで知らせるか?


平手のじいさんの話では、あけっぴろげで悪気のない性格らしい。

朝廷を敵にする気がないのなら、下手に隠さない方が安全と言っていたな。


信長ちゃんもそれに賛同し、基本的に隠すつもりはない。


どたぁどたぁどたぁ、今朝は忙しいね。

今度は藤吉郎が飛び込んでくる。


「お邪魔いたしま(だぎゃ)……す。いたします」

「藤吉郎、無理しなくていいから」

「申し訳ございません」

「で、何のよう?」

「はい、試作の鉄砲が完成したと鍛冶組から連絡があり、急ぎ、忍様にお見せしたいと願いでております」


おぉ、やっと完成したか!


設計図に、道具、材料を揃えているから、完成しない方が不思議なんだけどね。

1ヶ月先か、3ヶ月先かまでは判らない。


1ヶ月なら優秀だ。


「まだ、あと1週間くらいは掛かると思っていたよ」

「はぁ、昨日。火薬組が花火を成功させたのに触発されて、徹夜で完成させた由にございます」


無茶するね。

それで出来が悪くなっていなければ、いいけどね。


「判った。すぐに行く」

「わても付いて行ってもええでっしゃろか?」

「お好きに」


吉とでるか、凶とでるか?

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