第28話 竹取り乱(1)の事。
おい、『竹取り乱』って誰が言ったんだ?
私は
信秀おっさんに信長の初陣を申し付けられて那古野城に戻ってくると、城内は大慌てであった。
「ご無事なご帰還。心よりお喜びいたします」
「初陣じゃ。三河の大浜に出陣いたす。直ちに準備に掛かれ」
「はぁ、ただちに陣触れを」
「初夏は田植えの時期だ。百姓の動員は避けよ。希望者のみを集うように徹底しろ」
「ははぁ」
私がこの世界に来たのが旧暦の5月初旬で佐久郡内山城攻めにぶつかったようなのです。
そもそも天文15年(1546年)4月に北条氏が関東へ侵攻し、関東管領である上杉憲政を駆逐した『河越夜戦』が起こり、上野国を逃げ出して武田の所に逃げて来た所だったみたい。
もっと力強く調略すればって、無理か。
旧領の小県を取り戻したいから武田に近づいたみたいだし、織田が諏訪に攻めるのはまだまだ先だからね。
でも、佐久郡攻めは初戦で大きくつまずいたらしく、佐久郡内山城攻めも巧くいってない。
史実では21日に落城するらしいけど、まだまだ士気が高く、落ちる気配もない。
ふふふ、嫌がらせで鉄砲と食糧の補給をしてやろうか?
襲われ恨みは忘れてないよ。
今は5月中旬で田植えです。
百姓は大忙し、でも、2男や3男まで忙しいかと言えば、力を余しており、陣触れがあれば、喜んで参陣してくれます。
「で、どうするの? 動員するなら1,000くらいなら何とかなるわよ」
「いや、いや、いや、それはしないから」
千代女ちゃんが甲賀を動員してもいいような事を言ってくれますが止めておきましょう。
海岸部に移住したのは甲賀から約4,000人、柳生から約1,700人、飯母呂から約800人で広大な4,500ヘクタールの農地の管理を任されて大忙しなのだ。
どれくらい大きいかと言えば、甲賀市の耕作可能面積が5,160ヘクタールで、そこに甲賀の人が9万人くらい暮らしています。
つまり、甲賀の里の軽く10倍の農地を任せているので人手が足りないのですよ。
この人数に間者働きしている人は含まれていません。
間者は甲賀から約1,800人、伊賀から約300人、柳生から100人、飯母呂から80人という内訳で出して貰っています。
一ヶ月後には伊賀も2,000人規模の増員を送ると言っています。
このままでは、4,500ヘクタールの農地が甲賀のモノにされると焦っているんですよ。
土岐川(庄内川)の西側も埋め立てて、臣従するなら伊賀に献上しちゃうよと勧誘してみようかな?
それはともかく!
間者の内、甲賀の半数は畿内の人集めで分散させ、残り半分が情報収集と特別な鍛冶職、要人の護衛に割りふって貰っています。
総代は千代女ちゃんであり、実際に管理するのは、千代女ちゃんの叔父に当たる左近衛太夫將監が取り仕切り、長たらしいので、私は『將監』と呼んでいます。
大殿に付いているのが望月家の分家に当たる
えっ、千代女ちゃんのお兄ちゃんですか!
養子で出ていったから他家の人ですか。
千代女ちゃん、シビアです。
伊賀は様子見で300人を送ってきたので普請に当たる各所の人夫に混ぜています。
どこの誰か判らない素性不明の人夫を監視なしで雇うのは無理ですね。
後続でくる伊賀2,000人もこの中に紛れ込ませて監視させましょう。
100人組頭以上は士分扱いになるからね。
足軽組頭に転向して、いずれは侍大将になっても構わないよ。
普請の人夫の配置はこんな感じだ。
普請は人夫、10人を束ねる10人小頭、100人を束ねる組頭、300~500人を束ねる小普請役、1000~5000人を束ねる小普請支配となっている。
この上には家臣が受け持つ作事奉行、普請奉行があり、実際に指揮をするのは那古野の小者で小作事奉行、小普請奉行と言う。
作事奉行、普請奉行は勘定奉行、用水奉行、台所奉行、代官と同格になる。
奉行は足軽、足軽小頭、足軽組頭、足軽隊頭より上ですが、足軽支配の足軽大将より下になる。
一門衆、譜代衆、旗本衆、馬廻り衆はさらに上の上司になる。
話が逸れた。
飯母呂一族は余り多くの田畑を管理していない。
人数が少ないのに塩と湊の管理も任せているからだ。
地元の川原衆と漁村民の1,300人を小者として召し抱えて手伝わせているが、それでも人手が足りない。
佐治さんが自主的に手伝いに来てくれているので、飯母呂の下の組み込んでしまおうか?
織田国内で唯一
まだ、苗を育てている所で遅植えになりそうだ。
他にも綿の栽培や蚕と桑の木の管理とか、麦、蕎麦、蓮根、人参、玉ねぎ、大根、里芋、じゃがいも、サツマイモ等々、世界中を回って回収した野菜の栽培をガイド草紙だけ渡して丸投げ中だ。
私は稲や野菜などを育てたことがないので、知識があってもノウハウがない。
彼らと一緒に二人三脚で進めてゆくしかないのだ。
今年、がんばってノウハウを積んで貰わないと指導者が育たない。
長々と何が言いたいかと言うと、海岸部でがんばっている甲賀らのみなさんを使うと、今後の農作物に支障が出かねないという事だ。
おぉ、思い付いた。
新しい埋め立て地では、馬や牛、豚、鶏の飼育所にしよう。
伊賀の者には育成を中心にがんばって貰おう。
これでお肉が食べられるぞ!
「いつもバッファローとか、カンガルーとか、食べているじゃない」
「それはまた別よ。和牛と言って、霜降りの肉は格別なのよ」
「ホントに!」
「嘘言って、どうするの!」
「じゃあ、さっそく取りに行きましょう」
「品種改良と言って、色々な牛を混ぜないとできないのよ。先は長い」
「役に立たないわね」
うるさいよ。
とりあえず、オランダでホルスタインの祖先みたいな牛を5頭買って帰ってきた。
「賄い頭さん、一頭は潰していいですから、残りは小屋を作って下さい。乳がおいしいですよ」
「獣の乳ですか」
「これがシチューの草紙ね。試して下さい」
「判りました」
以前のバッファローで厚切りのステーキが好評だったので、今日の夕げはステーキとシチューだ。
賄いさんも慣れてきたね。
「で、この後は何をするの?」
「さっき、集めてきたタングステンとチタンで刀と甲冑を造るのよ」
「別に部屋で寝ていてもいいんだよ」
「信長様の命令だから付き合うわよ」
信長付きの千代女ちゃん、信長ちゃんの命令で私に付き添っている。
藤八と弥三郎もよく付き添うんだよ。
信長ちゃん、自分の代わりに来させて報告させている。
◇◇◇
翌朝、皆が甲冑を身に纏っている中でセーラー服で登場したのは信長ちゃんだ。
腰に刀を下げています。
セーラー服と日本刀、このミスマッチ感がいいね。
戦場に赴くと言うのに甲冑を着けないのは大胆不敵であります。
戦を舐めているのかと怒られていますが、殺し文句を一言。
「忍様がこれでよいと言われました」
信長LOVEの忠臣達が、私をギロリと睨み付けます。
それでも青山信昌と内藤勝介の両名は、頭を下げて甲冑を身に付けてくれと懇願するのです。
「甲冑は不要。そなた達が儂を守ってくれるのであろう。期待しておるぞ」
「若様、危のうございます」
「問題ない。青山と内藤のじいがいるではないか。儂を守ってくれ」
きゃあ、殺し文句よ!
二人は泣いて「必ず、お守りいたします」と誓います。
私への恨み100倍、信長ちゃんへの忠誠も100倍だ。
信長ちゃんに甲冑はいらないと言いながら、私は甲冑着ているんだから恨むでしょう。
私も徹夜で新しい朱染めの甲冑を作りましたよ。
朱染めの甲冑は私と慶次様と宗厳様の三人のみ、信長ちゃんを三方から守るように馬に乗って囲んでいます。
えっ、私が馬に乗れたかって?
いつの話だよ。
藤八が手綱を持って歩いてくれているから問題ないよ。
一週間もあれば、一人で跨ぐくらいはできるようになるさ。
藤八ら小姓も同じ甲冑の仕様で作っています。
見た目が美しい白銀です。
中身はタングステンとチタンの合金を樹脂で覆ったので超軽量の全身鎧ですよ。
切れない上に、潰れて衝撃を吸収する構造が売りです。
みんなの刀もタングステン鋼を刃先に採用し、両側をチタンでサンドイッチした優れモノであり、名刀に劣るかもしれないけど、ナマクラより切れて、かなり丈夫な刀を造ってみました。
槍も同じ構造で、柄の部分は薄い合金を筒状にして中を樹脂で固めてみました。
藁を試し切りした結果、概ね好評です。
三河に向かう軍の構成はこんな感じです。
直参の馬廻り衆が50人、
信長ちゃんが集めた直近衆が100人、
信長ちゃん自慢の鉄砲衆が100人、(一人で3丁)
那古野城で集まってきた農兵(足軽)が50人、
加世者で集めた足軽衆が200人、
以上、那古野衆が合計で500人。
林秀貞の林衆とその与力で200人。
平手政秀の平手衆とその与力で100人。
青山信昌の青山一門衆とその与力で50人。
内藤勝介の内藤一門衆とその与力で50人。
すべてを合わせる800人くらいの手勢になります。
これに普請で雇われた人夫の荷駄隊300人が後に続きます。
荷駄隊と言っても食糧はほとんど積んでいませんよ。
小型軽量化したバリスタ4機を荷駄車に積んでいるのです。
矢の代わりの竹槍も運ばせています。
その他、
三河の大浜城の兵は300人もいないので、倍近い兵を用意した事になります。
「この度の戦いは我が方の勝ちですな」
「信長様が農民の徴兵を控えよと言った時はどうなるかと思いましたが、余裕でしたな」
「如何にも、大浜などと言う小物を相手に大袈裟でした」
早くも織田軍は楽勝ムードが漂っています。
史実では、来年に起こる初陣戦で、敵方は2,500人を用意するんだよね。
私達の一向は末森城の前を通って飯田街道を東に進みます。
刈谷城に近づいた所で大浜街道に入って大浜城を目指します。
大浜城のある大浜は、荷揚げされた海産物を東尾張と三河中に運ぶ一大漁港であり、刈谷の水野とはライバル関係なのです。
ホント、お隣同士は喧嘩が絶えない。
「千代女ちゃん、いる」
「はい、ここに」
足軽の格好をした千代女ちゃんが私の後を歩いていた。
忍者っぽいじゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます