第2話 金の川を下ってきた天女の事。
【???】
その日、任された領地の村を回りながら熱田に向かっていた。
雨かぁ?
そう思って空を見上げると、きらきらと光るモノが落ちて来て、それは雨のように降って来た。
「金色の雨」
「なんと、面妖な」
「しかし、綺麗だ」
「それは確かに」
『何? どうして? いやぁぁぁぁぁぁぁ~、誰かぁ』
すぼっ!
落ちて来て者は金色の砂の中に頭から落ちた。
そして、足をばたばたとして、突き刺さった穴から抜け出した。
私の小姓達が刀に手を掛けて警戒するのです。
『死ぬかと思った』
そう言うとふり返った。
髪は黒髪、肌は白く、濃い藍色の面妖な服を着た少女であった。
その顔立ちは美しく。
まるで天女のように思えたのであった。
◇◇◇
私は転移を終えた瞬間、慌てた。
足場がなかったからだ。
「何? どうして? いやぁぁぁぁぁぁぁ~、誰かぁ」
そのまま10mの高さから落下、先に落ちた砂金に埋もれるように頭から突き刺さった。
足をばたばたさせて、何とか抜け出しても上から止まる事なく砂金が降ってくる。
どういう事?
“半径5kmから集めた金を一箇所に集めた為にこうなりました”
確かに半径5km四方に砂金の雨が降るのはちょっと拙い。
でも、どうして空中に放り出すのよ。
“転移の中心がご主人になるのは仕様であります。10mの高さから落ちてもボディーに損害はありません”
痛いのよ。
砂金に埋もれて窒息死する所じゃない。
“呼吸しなくても死ぬ事はありません”
そう言う事を言っているんじゃないのぉ。
今度から空中に放り出た場合は、地上に再転位する。
“それでは砂金に埋もれて、さらに身動きできなくなります”
中心地から少しズラして転移する事。
それが新しい仕様よ。
判った?
“了解しました”
「もう、死ぬかと思った」
そう言って振り返ると少年と目が合った。
残りの砂金がまだ私の後に降り続いていた。
◇◇◇
何ぃ?
この美少年な生き物は?
少年が前によって跪いた。
「某、那古野城を預かります。織田三郎平朝臣信長と申します」
信長来たぁぁぁぁぁ!
天文15年は元服して年で12歳のはず。
超可愛い。
しかも美形ですよ。
ちょっと待て、戦国一の絶世の美女が信長の妹の『お市の方』ですよね。
その妹の『お犬の方』といい、お市の方の娘の『お茶々』といい、いずれも絶世の美女と言われます。
どうして、信長も美少年と思わなかった。
私の馬鹿ぁ!
弟の信行は父親似のがっつり系だったが、信長は母親似だったんだよ。
つまり、
どうして気づかないかな、私?
「天女様、どうかしました?」
「いえ、朝から何も食べていないのでお腹が空いただけです」
「それは気づきませんでした。何も御座いませんが、ささやかな膳を用意させましょう。どうか我が屋敷にお越し下さい」
「ありがとう」
やった。
信長とお食事だ。
私は立ち上って信長の手を取った。
信長が顔を赤めています。
なんて、初心なのぉ。
私の気分はMAXよ。
「天女様、後ろの金は如何いたしましょう」
側近の澄ました顔の小僧が言います。
年は18歳くらいかしら。
「あなたは?」
「岩室長門守重休と申します。信長様の小姓をさせて頂いております」
「ふん、そう」
身長は165cmくらいで、信長より二回りくらい大きく見える。
頭が良さそうだけど、私の好みじゃないわね。
「特に用もないので、信長ちゃんに上げます」
「よろしいので」
「うん、うん、信長ちゃんが喜んでくれるなら上げちゃう」
「ありがとうございます」
良い子だ。
うつけとか言われているとは思えないほど、いい子じゃない。
「所で、この金は如何ほどございますか?」
いくらだろう?
AIちゃん。
“約70トン、こちらの単位で金27万斤、銭に換算して394万貫文に当たります”
と答えて上げると、信長を始め、長門守らの小姓も目を丸くします。
米の相場で銭の価値が変わりますが、ざっと394万石に相当し、尾張57万石ですから、ざっと7年分の収入です。しかも信長の父である信秀は尾張の四分の一ほどしか支配していませんから、年収の20年以上の大金を手にしたのです。
そりゃ、驚きますよ。
◇◇◇
空腹は最高の調味料。
時間的には1日半ぶり、感覚的に3日ぶりのご飯です。
美味しかった。
味付けは塩と味噌味しかなかったけど、海の幸、山の幸を乗せたお膳が沢山出てきました。
余は満足じゃ。
那古野城は大慌てです。
私の接待と金の回収で手の者がすべて借り出されているのです。
そんな慌ただしさと無縁の私はゆったりできたのです。
しばらく、ここでゴロゴロとしましょう。
平和は一番です。
◇◇◇
末森城に行った長門守は信長の父である信秀に会いに行きました。
「急ぎの用件とは如何なる事か」
「はぁ、わたくしは夢を見たのかと。あるいは、まだ胡蝶の夢の中にいるのではと思わん事態でございます」
「的を射ん。はっきりと申せ」
「信長様が天女をお拾いになりました」
「はぁ?」
普段から真面目で冗談も言わない長門守が真面目な顔でふざけた事を言い始めたので、信秀は溜息を付いた。
「息子が食いあぶれた者を召し抱えて連れ回しておるのは承知しておる」
「次男、三男を家中で腐らせるのは勿体ないとの事でございます」
「馬上で柿やアケビを食するのは、食事をする時間が勿体ないからであったな」
「商家の者は道中に歩きながら握り飯などを食して移動する時間を削ります。行軍中にそれが出来れば、より早く目的地に着けるのはないかとお試しです」
「瓢箪と草履を身に付けておるのは如何なる理由であったか」
「熱田の鍛冶師が瓢箪を身に付けて仕事をしております。水を小まめに飲むと熱さに耐えられるとか、夏に小まめに水を取れば、行軍中に倒れる者が減るかもしれないと。また、草履はすぐに草臥れるので、常に替わりを持っておれば、同じく行軍を遅らせずにすむとの考えであります」
信長の行動は武家の者としては問題があり、非常に評判が悪い。
周りから『うつけ』と罵られている。
祖父の
その信長を織田家一門で唯一理解する者は父の信秀のみです。
家臣の中でも津島の大橋家や熱田の千秋家などは信長に好意的ですが、その他の家臣は『武家の棟梁』にあるまじき行いと罵るのです。
そんな信長の行き過ぎた行動を嗜める役目に長門守を抜擢していたのです。
その肝心の長門守が『天女を拾った』などと戯言を言うようになっては、信長もこれまでかと、もう一度溜息を吐くのです。
「まずはこれをご覧下さい」
差し出したのは砂金の入った砂袋を差し出します。
「なんと、これは見事な」
その金の純度に驚いた信秀は、その砂金と天女を結び付けるのです。
「なるほど、これほどのモノを持っておるとなると囲うのも相判った」
「いいえ、お気を確かにお聞き下さい」
「今日のお主はどうかしておるぞ」
「大殿、よくお聞き下さい。信長様は天女より、その砂金27万斤を拝領されたのでございます」
「27斤とは、大した量であるな」
「いいえ、言い間違っておりませぬ。27『万』斤でございます」
「万じゃと、たわけた事を申すな、ははは」
信秀は取り合おうとしませんが、長門守がじっと信秀の目を真っ直ぐに見続けているのです。
余りの真剣さに信秀の笑いが小さくなってゆきます。
「ま・こ・と・か」
「わたくしは、今もなお、胡蝶の夢の中にいるのかと自問自答を繰り返すばかりでございます」
「難しい言葉をいえば、偉くみえると思うな! ただ、『信じられぬ』とだけ申せばよい」
「はぁ、申し訳ございません」
「で、如何しておる」
「近くの村の者を集め、木板を立てて人目を隠し、熱田・津島から急ぎ砂袋を取り寄せて、那古野城に運ばせ、大工に頼み、急ぎ倉を七つほど建てさせておりまする」
「この目で見ずば、信じる事などできるか」
そう言うと信秀は立ち上り、那古野城へ向かうのでありました。
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