信長ちゃんの真実 ~間違って育った信長を私好みに再教育します~
牛一/冬星明
第1章『赤鬼忍、尾張に居つく』
第0話 プロローグの事。
薄暗い小雨降るどんより曇った昼最中。
がしん、がしんと剣と剣がぶつかつ閃光が光り、ごろごろと天空も光を放つのです。
人が軋み、ドバぁと血しぶきが飛びます。
そう、これが私の憧れた戦国時代?
ちゃうわい。
こんな血みどろの戦いを憧れた殺人狂じゃない。
凛々しい左近様や美しい長宗我部元親や勇ましい前田慶次の華麗な槍捌きに憧れただけです。
こんな殺人に憧れた訳じゃない。
空から矢が降ってきて、私に突き刺さります。
痛い、痛い、痛い!
「お覚悟」
きゃぁぁぁぁぁ!
鋭く襲ってく槍、その渾身の一撃が胸を差し、その勢いで倒されます。
勢い余って一回転半、ぬかるんだ泥地に倒れ込んだ私に、槍を捨てて男が襲い掛かってくるのです。
男の人に押し倒されるのは、ちょっと夢みたけど、これは違う。
絶対に違う。
その男が私に馬乗りになると脇差を抜いて、首に刃を突き立てます。
殺される!?
私、ここで終わりなの?
どうして、どうして、こんな事に?
・
・
・
私の楽しい戦国旅行はどうなったの?
◇◇◇
知覚時間にして半日ほど前の事です。
いつものように高校で授業を受けていた私は国学の教師に頭を叩かれました。
「馬鹿者、国学の時間に歴史の資料を開くな」
「先生、ハッキングは違法です」
「授業を受けない奴は違反だ。罰として、来週までにおまえの大好きな源氏物語の感想文200枚を提出しろ」
「えっ~~~~! 無茶です。せめて20枚にして下さい」
「俺の授業を聞かん奴は許さん。200枚で甘い、嫌なら400枚にしてやろうか」
「えっ~~~~~~~鬼、悪魔」
授業を終えると、友人のみきみきから笑われました。
「今日は何を見ていたの?」
「えへへへぇ、昨日作った元親様の3Dグラフィック」
「またぁ!」
「今度の奴はリアル画像率が300倍だよ」
「歴女ねぇ」
「悪い!」
「この前は火縄銃を作ってなかった?」
「オリジナルの火縄銃を左近様がビシっと構えるのよ。カッコいいと思わない」
「思わない」
「友達がいのない奴め」
「それがなければ、人気者なのに!」
「人の評価なんてどうでもいいのよ。大切なの私、何がやりたいのか、何ができるかなのよ」
「忍は何でもできるから、そんなこと言えるのよ」
「みきみきもできるって!」
「はいはい、学園アイドルNo.2様」
「何ぃ、それ?」
「座っていれば、美人に見える。下級生から絶大な支持を受けて、今月のランキング2位になりました」
「また、やっているの?」
私はみきみきはカラカラと笑った。
私は175cmもあったのでバレーやバスケの部員が勧誘は来るのだが、スポーツが苦手なのですべてお断りした。
スーパー助っ人!?
あんなの遊びです。
真剣にしている人から見れば、遊びですよ。
そりゃ!
かっこいい先輩を間近で見るという特権は捨てがたいが、生まれ付いての根性なしが厳しい練習に耐えられる自信もないのよ。
「1度やってみればいいのに」
「中学で1度やって、3日で挫折した」
「あらあら」
「私、スポーツは駄目なのよ」
「どの口がいいの?」
「この口!」
「ふっ、柔道部のキャプテンの話はどうなったの?」
「お断りした」
「嘘ぉ、全国3位よ。オリンピック候補よ。体育大の推薦も決まっていたのよ」
「ゴリラは駄目、生理的に受け付けない」
「もったいない」
「だって」
「忍は見かけだけはいいんだから! こんな玉の輿を逃したら、もう絶対にないわよ」
「がっちり系なら、せめて顔が爽やかな美男子でないと」
「このぉ、駄目美人め!」
「も~う、それ言うのなし」
みきみきに散々罵られながら学校を出た。
バス停に向かいながら、私はみきみきと明日の話をしていたのです。
「ねぇ、忍。明日のコンサートは何時にする?」
「ちょっと待って」
私は|Virtual real portable《バーチャル リアル ポータブル 》、略して『バリポ』を起動して、コンサートの開幕時間から逆算して電車の時間を検索します。
この『バリポ』は一世代に流行ったスマートフォンやタブレットの後継機であり、腰に据えた本体と耳の後に差した電脳針を中継して、脳内で映像や検索ができる優れモノなのです。AIが補助脳として機能してくれるので、様々な検索やツールの管理も楽々OKなのだ。
昨日も3Dモバイルを使用して、理想の長宗我部元親様を制作、今日は左近様か、前田慶次様を作るのだよ。
は、は、は!
記憶媒体は1万テラバイトもあり、一般教養から、授業で使う資料もすべて入り、私の趣味の歴史ツールや裏資料までをすべて収納済できる。
「よぉ、歴史検定の日本一」
我が校が生んだ『歴女王の忍』とは、私の事なのです、ははは。
「はい、はい、世界大会に向けて自習中というネタは、もういいからね!」
「みきみき、酷い」
「で、明日何時に集まるのぉ?」
明日は、大河ドラマ『傾奇モノ、前田慶次』の少年役をやる事になった少年隊のコンサートに行くのです。
「少年隊、サイコ!」
「言っておくけど、私達はあまがき隊のコンサートに行くのよ。少年隊はゲスト出演だからね。私の目的は前田慶次役よ。渋い男の魅力あふれるあまがき隊のリーダー翼君だからね」
「判っているわよ。でも、少年隊のショウちゃんの方が可愛いと思わない」
「私はショタじゃいのよ。変な格好してきたら、他人のフリするからね」
「ヒドい」
そんな事を言い合いながら歩いていると、突然に青空から稲妻が降ってきたのです。
うん、雲1つない晴天からね。
◇◇◇
「その非常にすまん」
白い髭が床まで伸びた白髪の老人が急に謝った。
まったく展開に付いていけなかった私は首を捻った。
「どういう事でしょうか?」
「まず、儂の孫がおぬしを殺してしまった事を謝罪させて貰う」
「殺した?」
えっっっっっっっっっっっっっっっっ!
私、死んじゃったの?
「正確に言えば、肉体を破壊してしまったのだ」
「肉体?」
「そうじゃ、このように」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
私の体半分が綺麗になくなっている。
まるでゾンビ映画のように境目が黒コゲになっているし…………。
「どういうこと?」
「儂の孫達が喧嘩をしおってのぉ。使用した魔法の結果、不幸な事故が起こったのだ」
「不幸な事故って、何」
白髪の老人の孫が『ディメンションカッター』を放ち、その相手が『次元壁』を発生させて、防ごうとすると、時空の狭間に『ディメンションカッター』が飛び込み、亜空間の狭間を壊して、異空間の別世界に飛び出たと言う。
「冗談じゃない。子供の悪ふざけで殺されたのかい」
「本当にすまん」
「謝って済むなら警察はいらない」
「申し訳ない」
「あぁ、私は死んだのね」
「死んではおらん。魂は確保に間にあったので肉体が再生でき次第、生き返る事ができるぞ」
「ホント?」
「嘘は言っておらん。しかし、強制的に時間停止を掛けたせいで、しばらくはあちらの世界の門を開く事ができん。向こうの時間で1年後になるのじゃ」
意味が判らん。
難しいぞ。
「要するに、儂が作った人形が病院のベッドの上で寝て、1年後に再生した肉体と入れ替えて目が覚める事になる」
「1年間も寝たきりですか」
「まぁ、そういう事だ」
なんて事。
花の17歳を寝たきりなんて!
「そこで謝罪と賠償を兼ねて、好きな場所、好きな時代に好きなだけ旅行に行けるというのはどうじゃ」
「戦国時代、もしかして、戦国時代に行けますか?」
「可能じゃ、但し、平行世界になるぞ」
「平行世界?」
「歴史を改変しても問題が起こらない世界とでも思ってくれ」
「それはますます嬉しいです」
「異世界でもいいぞ」
「異世界にも行けるの?」
「可能じゃ」
「異世界も行ってみたいけど、やっぱり戦国時代がいい」
「そうか、では戦国時代にしよう」
「でも、私の体は………」
「安心するがいい。儂が作った傀儡をお主の体そっくりに模して送ってやる。そうじゃな、その輿の疑似生物に疑似精霊を汲み込んで置くので、使い方は追々と学べばよい」
「ありがとうございます。念願の戦国時代に行けます。こればっかりはバーチャルで我慢するしかなかった夢が叶います」
「喜んで貰って幸いだ」
「ところで、あなたは神様ですか?」
「いいや! ただの魔法の国の老人じゃよ」
「神様ではないと?」
「神様はもっと上にいる。儂らは神じゃない。ちょっと魔法が使える種族に過ぎん」
「なるほど」
「では、楽しい旅行を」
「行ってきます」
・
・
・
・
そう、楽しい旅行になるハズだったのに、いきなり戦場に出すとかないじゃない。
◇◇◇
はじめて男に襲われました。
はじめて男に馬乗りにされました。
お父さん、お母さん、こんな戦国の世界で死んでしまいます。
ごめんなさい。
押し付けられた脇差が私の首をグイグイをと押し付けます。
痛い、苦しい、息ができない。
のこぎりみたいにゴシゴシするとか酷いよ。
女の子なのに!
槍の一突きで身動きができなくなった私の首を取ろうなんて!
“…………”
死ぬ瞬間は、まるでスローモーションみたいに長く感じると言うけどホントなのね。
“あの…………”
あぁ、幻聴も聞こえてきた。
私の首を取ろうとする男の顔がはっきりと見える。
必死そう。
何か、焦っているようね。
“そろそろ、喋ってもいいでしょうか…………”
本当に幻聴が聞こえる。
私に馬乗りになっていた男の胸に突然に槍が生まれた。
あっ、なるほど。
首を取るのに夢中になると、背中から槍で襲われる事もあるのね。
南無!
可哀そうに!
その男が私の上に倒れ、その上に別の男が馬乗りになって男の首を切ります。
ごきっ、そんな音と聞こえ、上に乗った男の首が飛び、首から流血がどばどばと流れで私の上に落ちてくるのです。
生温かい。
気持ち悪い。
でも、吐くほどでもない。
“それは、このボディーに状態異常耐性として、恐怖耐性と毒耐性、痛覚耐性、悪寒耐性などが備わっているからです”
なるほど、それは便利だ。
???
誰?
“私はあなたのAIです”
AI?
“あなたの補助脳『バリポ』に備わったAIです。ご主人は私を『AIちゃん』と呼んでいました”
AIちゃん!
“はい”
私、槍に突かれて死んだんだよね。
“いいえ、魔法の国の物質を破壊できる兵器は、この世界に存在しません。痛覚機能があるので痛いですが、ミサイルに撃たれても死にません”
えっっっっっっっっっっっっっっっっ!
私、死んでないの?
“はい、この世界の刀でご主人の首を切るのは不可能です”
あの白髪老人の嫌がらせじゃないのね。
“はい、500年前のまったく同じ場所に転移されました。戦にあったのは単なる偶然です”
そっか、単なる偶然か!
そう納得すると、こんなグロテスクなモノを見せられた事に腹が立ってきたのです。
何が悲しくて、死体の下で血みどろになって寝なくてはいけないのでしょうか?
滅茶苦茶、腹立ってきた。
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