1月3日


「おーおー、今年も来てんねえ」


俺は携帯の通知欄を見て、ため息をついた。

毎年の恒例行事だ。

1月1日0時を迎えた瞬間、メッセージが鬼のように流れてくる。


ファンからの新年の挨拶や友人からのメッセージが溜まっている。


12月31日は紅白歌合戦を見たのち、風呂に入る。

メッセージが来ても送り返す気も起きず、そのまま寝る。なので、どうしても溜まってしまうのだ。


その中で、写真が送られてきた。

年賀状だった。


「……あい」


送り主はぼけっとした表情で俺を出迎えた。


「よう、あけおめ。

何お前斬新なことしてんだよ」


「あけおめ」


「住所知ってんだから、素直に送ればいいじゃん」


「あー……お前もお前でわざわざ来てんじゃねえよ。お前にやるお年玉はねえぞ」


永瀬はあくびを噛み殺す。

フリースパーカにジャージのズボン。

外に一歩も出てないんだろうな、コイツ。


「何でお前にたからなきゃならんのよ」


「ああ、そうだ。

いっこ聞きたいことがあったんだ。

まあ、ここにいてもしょうがないから、中に入れ」


部屋の中心にテーブルが置かれ、電気ストーブが設置されている。


部屋も割と片付けられている。

昨日、掃除した姿が目に浮かぶようだ。

果たして、これがいつまでもつだろうか。


テーブルに向かい合わせに座る。


「これ、どういうことだ」


永瀬は携帯を俺に見せる。

ちょうどコイツが乱入してきたシーンが切り取られていた。

SNSで誰かが流し、大騒ぎになっているらしい。


クリスマスのとき、俺が動画配信サイトで生放送そていたときのことだった。

口止めされていたにも関わらず、コイツの秘密をバラしてしまったことがきっかけだった。


どこで聞いたかは知らないが、永瀬はそのまま俺の自宅に突撃し、生放送に乱入したのだ。

視聴者はドッキリか何かだと思ったらしく、そのまま放送は続けることになった。


これだけでいうと、平和に終わったように思えるだろう。問題はこの後だった。


俺と親しいことやトークが軽快でおもしろかったことから、それなりに人気が出てしまった。

様々な連絡が相次ぎ、次の日に俺は事務所に呼び出された。


事務所にはこっそり仕込んでおいたドッキリってことにしておいた。

神出鬼没というか、裏で何やらかすか分からないという印象を持たれているらしい。


決して良くないイメージだ。

しかし、こういう非常事態には便利でもある。


「まあ、霧崎だしな」


そんな結論を出されて、大抵は納得される。


結論だけで言えば、視聴者からのウケが悪くなかったということで、厳重注意で済んだ。

細かい説教も散々食らったし、先輩からも注意されたりもしたけど、それは問題じゃない。


「あー……ほら。

この前の放送、乱入したでしょ?

それで火がついちゃったんだな」


「どうすりゃいいの、これ。

怖くて出歩けないんだけど」


こいつをどう守るかってことだ。

あれだけ荒れている以上、そう簡単に外には出歩けないはずだ。


「事務所には、こっそり隠してたドッキリってことにしておいた」


「それでよく納得してくれたな」


「大半はあきれてたけどなー」


「けど、今更言ってどうにかなるもんか?」


「まあ、アンタの方でも俺じゃないって一言言えば、どうにかなると思うが。

そうすりゃ、納得もいくでしょ」


あの手の炎上はある種の流行病のようなものだ。

そのうち治まるだろう。


問題は永瀬のウケが思いのほかよかったら、今度から彼も呼んだらどうだと提案されてしまったことだ。さすがに、これ以上は巻き込めない。


「元はと言えばお前が原因だろうが。

他人事みたいに言いやがって!」


目が覚めてきたのか、俺の足を蹴り飛ばす。


「すみませんって。

マスクでもして顔隠せばいいと思うよ。

自分のことなんて言うほど見てないしね」


「そんなもんかよ……それで済むといいけど」


永瀬は半信半疑といった感じで、マスクを棚から取り出す。


「じゃあ、久々に外に出るか」


「何しに行くんです?」


「初詣に決まってるだろが。

ビビってた俺が馬鹿みたいだろ!」


まあ、こんな状況じゃ外にも出られなかったか。

てか、俺が来なかったら、どうするつもりだったんだろうな。


「今年も変なことに巻き込んだらすんません」


「変なことに巻き込もうとすんじゃねえ。

こちらこそ、何かあったらよろしくな」


お互いに一礼してから、家を出たのだった


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