ヤンターリの誓い

辻まこと

第1話 語り継がれる言葉


  「ある日3人の旅人がやってきて

   この村を邪悪な者から救い出してくれるだろう。

   そして永遠に笑顔と温かさで満ち溢れる

   平和な村へと導いてくれるだろう」


 僕も本当の意味で「伝説」と言われる歳になったのかもしれません。いくつになったのかって?そんなことがパッと思い出せないくらいの歳になってしまいました。さぁてぼちぼち村の子どもたちがここにやってくるころだ。今日はどこから話してやろうかなぁ。


 太陽が西に傾きあと1・2時間もすれば太陽が村の端の地平線の下に沈んでしまう時間だ。だいたいこれぐらいの時間になると、彼は、いつものようにこの草原の北の端にある木陰の大きな切り株に腰を掛け、誰を待つでもなくゆったりとした時を過ごしている。ここから見える村の中心にある大きな時計台の灯りもよーく見える。その時計台をじっと見ているのが好きなのだ。時計台の時間を知らせる鐘の音が村中に鳴り響くと、だいたい村の子どもたちが学校を終えて、一斉に遊びへの門を開くそんな時間になる。子どもたちは、まるで待ち合わせていたかのように、村の草原の北の端にある木陰になった切り株の上にドカッと腰を下ろしたあのおじいさんのところへとやってきて、おじいさんの話を今か今かと綺麗に座って待っていた。


「わー変な首飾り」

「そんなことないもん。」


 また始まった。本当に世話の焼ける子どもたちだ。特にこの二人はよく同じことで言い争いになる。


「そんなおっきな宝石の首飾りなんてなんで大事に持ってるんだよ。」

「これはね、おばあさまのおばさまの…ずーっとおばあさまから大事に持っている宝石の首飾りなの。」

「ふーん。そんな変なのがそんなに大事なものだなんて信じられない。」


 ミサがつけているこの首飾りは、確かにこの村に伝わっている大事なもの・・・。それを知らないなんてゴロは、まだこの村の話を聞いてないのかもしれないな。よーし今日はその話をしてやろうかな。


 「ゴロいい加減せんか。ほらここに座りなさい。今日はお前たちにミサが持っている宝石の首飾りの話をしてやろう。」


 他の子どもたちと同じように、ゴロとミサもみんなの輪の中に座り老人の話を聞き始めた。この子たちは、自分がまるで話の主人公にでもなったかのように目をキラキラさせて、ほほを赤らめて、時にこぶしを握りしめて老人の話をじっと聞いている。 遠い昔の本当にあった話…。老人も話しているうちに楽しくなってきたのだろう、そりゃあ夢中になって次々と話し進めている。話している老人も聞いている子どもたちもこの村の宝石伝説の話に夢中になっているのだ。ふと老人は真剣に宝石伝説の話を聞いている子ども達を見た。その時老人は何とも言えない懐かしい気持ちになっていた。その時の老人が子どもたちを見る目は、本当に優しくて暖かい陽だまりのような目をしている。特にゴロやミサと仲の良い子どもたちを見る時は、もうすっかりあの頃の自分たちが重なって見えていたのだろう。子どもたちはというと、どっちも同じくらい負けず嫌いで、しょっちゅう何かしらの言い合いをしている。この子たちはいつもそんなだから「仲が悪いんじゃないか?言い争ってばかりで」なんて心配している他の村人もいるようだが、老人は心配はしていなかった。むしろ(相性がいいのだ。)とさえ思っていた。お互いのことを尊重しあってるからこそ言い争いにもなるのだろう。と老人は思っているのだ。


「ねぇ、おじい様もっといっぱい宝石のお話して!」

そうミサが言うと他の子どもたちも口々に老人をせかした。

「わかった。分かった。いいか、今から話すことはお前たちが生まれるずーっと前、このモコチャの村で起きた本当の話じゃ」


 沈んでいく太陽と生まれたばかりの月の灯りが、広場全体を照らし北の端にある一本杉の木陰の大きな切り株の上で老人が村の子どもたちに話し始めたこの村に伝わる宝石の話


 100年に一度の満月の夜 お祭りの夜 ある者たちがこの村にやってくるという


 これから老人が話すのはモコチャの村に古くから伝わる伝説の宝石の話

 ずーっと昔の満月の夜の話


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