第68話

 夜の事である。わたしはタテヤマのパンフレットを見ていた。幼い頃に一度だけ行った観光地である。雪の壁に大きなダムなど色々思い出があった。もう一度、観光してみたいが。姉の愛菜は一人で行くのも問題ないらしい。わたしは勇気がなくて一人では行けない。この辺が姉の愛菜との決定的な差なのであろう。ため息をつき、わたしは外に出ると月が輝いていた。タテヤマのパンフレットを取り出して、夜空を半分隠してみた。細い三日月が見えなくなる。


「半分だけの空か……」


 それはわたしの世界のすべてであった。工夫をして、せめて月だけは見れるようにした。それでも虚しい。わたしは夏を呼び出す。


「夏、旅行に行かない?」

「恋菜様、わたしはこの月之宮のメイドです」


 要は忙しくて行けないである。


「少し、お疲れの様子です。お早めに休まれては?」


 夏の問いに頷き自室に戻る。わたしはタテヤマのパンフレットを机の上に置き、ベッドに横になる。携帯でタテヤマを検索してみるが、やはり一人では行けないなと思う長考の末にいつの間にか寝ていた。夜中に目が覚めると飲み物を探しに冷蔵庫の前に行く。


『ネガティブゲート』


 夏の部屋からゲームの音が聞こえてくる。この時間には夏はプライベートだ。

わたしは夏を押し倒す妄想をしてみる。ガチ百合である。ダメだ、疲れている……。わたしは自室に戻るとベッドで寝るのであった。


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