第46話

 わたしは授業がつまらなくなり、少し早めに帰ってきた。お屋敷に着くと夏がピアノを弾いている。この時間は夏のプライベートであった。わたしは夏のもとに向かうとピアノの音色が止む。


「お帰りなさいませ」


 夏が挨拶をしてくるのでわたしも軽く返す。そんな事よりピアノだ。


「ピアノを続けていいわ、今の時間はプライベートでしょ」


 わたしの言葉に夏は頷き、再びピアノを弾き始める。確かこの曲は『庭先の木陰』だった。売れない作曲家が作った曲であり、その作曲家の副業のピアノスクールで夏が覚えた曲らしい。わたしは自室に戻り課題をすることにした。ピアノの音が止む頃には夏のプライベートが終わり。夕食の時間が近づいてくる。課題を済ませると、わたしはピアノを弾こうと思う。ピアノなんて何年ぶりだろう。取りあえず『庭先の木陰』を弾いてみる。ゆっくりである曲は初心者でも弾きやすい。わたしはこの曲を夏から教えてもらい。つまりながらも弾けるのであった。しかし、この曲は作曲家の闇を感じる。正確には弾いた者の闇を浮かびあげるのであった。

わたしは曲の途中で手を止める。


 心の闇……。


 追憶の殺意でもなく。多分、わたしの孤独に反応したのであろう。そう、上手い下手という問題ではなく。弾いた曲に心の闇が浮き出てくるのだ。わたしは紅茶を飲むために夏を探す。夏は乾燥機を回していた。


「恋菜様、紅茶ですね」

「えぇ」


 何故、分かったのだろう?夏に問いてみると、やはり、ピアノの音色であった。わたしの孤独がピアノの曲の闇に出ていたのか……。紅茶を入れてくれる夏だけがわたしを理解してくれるのであった。

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