第4話
銃声が鳴った。バン、バン。一発、二発。これで終わった、と思った。けれど、いつまで経っても痛みがない。僕はゆっくりと目を開ける。
モンスターを見ると、まだ拳銃を握ったままで、その銃口からは確かに煙が立ち上っている。しかし、僕は無傷だった。モンスターの視線の先を追って、回転椅子を回して後ろを振り返ると、知らない男たちが血を流して倒れていた。オートマチック拳銃よりずっと性能の良さそうなピストルを何丁も下げて、武装したような格好をしている。男たちの倒れている近くには、大きな袋がいくつもあった。薬品や電子機器のバッテリー、食料や飲料水などが、そこから溢れている。略奪。暴徒。そんな単語が浮かぶ。口から煙草がぽろりと落ちた。
その時、膝になにか柔らかいものが飛び乗ってくる感覚がして、思わず視線を戻す。彼は、あの不恰好な姿を一瞬のうちに、一羽の完璧な白ウサギへと変えていた。自然界では到底生きていけなさそうなふわふわの小さな体が、僕の膝の上にある。彼は鼻をひくひくとさせながら、こちらをゆったりと仰ぎ見る。人生、何もかも自分の思い通りになるってわけじゃない。そう言っているようにも見えた。
「……」
生存には一人より二人(正確には一人と一匹)の方が有利、と考えられるほどの知能がチンパンジーにあったのか、それともただの直感なのか。そんなことを考えながら、床に落ちた銃を拾い上げ、ゆっくりとポケットにしまう。ウサギの形をした凶器を抱えて椅子から立ち上がると、片手で新しい煙草を取り出して火をつけた。ライターをポケットにしまい、大きく息を吸って紫煙を吐き出しながら、ふと、空いた穴から空を仰ぐ。
まだ空いているシェルターはあるだろうか。
誰も答えてくれる者はない。でもなぜか、きっと見つけられるだろうと思った。希望的観測をしたのは、生まれて初めてのことだった。青空は澄み渡って、綺麗だった。それだけで根拠は十分な気がした。
ドレイズと変異体 名取 @sweepblack3
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