第6話

ぼくが目をあけるとそこはもとの公園だった。

公園はナマズに会う前と変わらずまっくらだった。

桜の木だけがまだぼんやりと光っていた。

ぼくは光っている桜の木の前でぼんやり立っている。

「おかえりなさい」

 ミミの声が聞こえる。ぼくはあたりを見渡したけれど、ミミの姿はどこにもなかった。

「ミミ!」

 ぼくが呼んでもミミは姿を見せない。ただ声だけが聞こえる。

「さあ、まだおわりじゃないですよ。これからが本番。ヒロシくんにはまたやってもらうことがあります」

 僕は頷く。

「ヒロシくんはまた桜の木をまわります。今度は反対、右回りです。そう、学校で習った時計回りです。時計回りにまわるとそこにある人がいます。ヒロシくんの大好きなあの人です。はい、ここでまた決まりがあります。桜の木を時計回りに回ってある人を見つけても、決してヒロシくんから声をかけてはいけません。ある人がヒロシくんに声をかけるまでじっとまってください。いいですか、できますか?これができないとわたしの魂も消えてなくなってしまいます。大事な約束ですよ。その人をみつけてもヒロシくんからは声をかけない。できますか?では、約束を守って楽しい時間を。いってらっしゃい」

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