無題(習作)

イツキちゃん

プロローグ

"彼"は大いに困惑していた。

上を見れば知らない天井、横を見れば知らぬ壁。

ただ病院ではないということだけはわかる。それ特有の無機質さが無いのだ。

ではここはどこか?誰か知人の家にでも転がり込んだかとも考えたが、悲しいかなこの街に彼と親しい者は一人として存在しない。

「ここは…」

思わず声が漏れるも彼はとっさに口を掌で覆う。あまりにも高すぎるのだ、声が。

仮にも成人した男性から出るような、聴き慣れた自分の声では無く、澄んだ少女のような声色だった。

とっさに身を起こしたが怒涛のように違和感が押し寄せる。


先程口を覆った掌はなんだ?見慣れたものでないあまりにも頼りない小さな手だ。


先程その小さな手で触れた顔はなんだ?鼻も口も肌触りもまるで違う。


頭の妙な重さはなんだ?社会人になってからというもの髪は毎月整えていたはず。


この体の違和感はなんだ?あるべき場所に関節がある気がしない。五体満足ではあるがそのどれもが慣れ親しんだものではなくしっくりとこない。


彼は焦った。自分がどうなっているかは薄々勘付いてはいたもののまだ確信はしていない。落ち着けと心に念じながら周囲を見渡す。


「鏡だ…!」


とっさに目に入った姿見に駆け寄る。

その最中にも周りのものが大きくなったような気がしていたが、錯覚だと言い聞かせながら遂に姿見の前へたどり着いた。


「誰……これ。」

そこには自分とは似ても似つかない、"少女"の姿が映し出されていた。

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無題(習作) イツキちゃん @ttwwyop

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