鬼の僕と、人の君
綾瀬
第1話
僕は僕が大嫌いだった。
悪目立ちする白い髪に、不気味な紅い瞳。そして何より、額から伸びる二本の赤黒い角。異形のそれである特徴を持つ僕は鬼だ。
人間に、ある時は石を投げつけられ、ある時は罵られた。
またある時、今度は予見された言葉とは違ったものを受けた。
「あなたは、綺麗だな。私と違って」
彼女からそんな素っ頓狂な言葉を聞いたのは、家族と暮らしている森の外れにある湖畔だった。
そう言う彼女はどこか嬉しそうだ。何故だかわからないがそう感じた。
ただ当時の僕には、それが皮肉にしか聞こえなかったのだ。そりゃあそうさ。僕らを醜いと罵倒する人間が、僕のことを綺麗だと言うもんだから。
とても普通で、過大解釈の余地もない。
「なんで、そう思う……」
少しばかり不満を語気に込めながら問うた。
「全部殺したんだ。だから私は、自分のことをとても醜く思うんだ」
「殺すのはだめだ。たとえ憎くても、殺してやりたくても、それをやったらサル以下だ」
少なくとも僕はそう思っていて、今までもこれからも誰も殺さないつもりだった。自分が傷ついたとしても、それを理由に相手を傷つけるのは正義ではないと両親に教わったから。
「ははっ、違いないな。殺すのは本当によくない」
真剣な話をしていると思っていた僕は、笑いながら答える彼女に戸惑った。
(調子狂うなぁ……)
「私がここにいるとあなたたちに迷惑をかけてしまいそうだ。だからもう行くよ」
調子は狂う。狂うがしかし、彼女とは気が合いそうだった。
「いや、もう少しゆっくりしていってもいいよ。もっと君と話がしたい」
鬼の僕と、人の君 綾瀬 @ayase_kou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。鬼の僕と、人の君の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます