本作はTS要素を持ち、IFの世界を舞台にした、ヒーローものの小説にあたります。様々な魅力があるのですが、中でも“恥じらい”の要素に惹かれます。主人公の老人は殺された(と思われる)孫娘の姿に、自らの意志で変身します。それは、世界を襲い孫娘を殺した未知の化け物と戦うためです。変身により人間を超える力を得るのですが、その際、性と年齢のギャップが生じるのですが、そこを丁寧に描写してあります。老人が孫娘の姿でうろたえたり、男性に「女の武器」を使ってしまい自己嫌悪したり、孫と同年齢の女性と仲良く会話したりと、シチュエーションも様々です。そのたびに主人公は恥辱を受けたり罪悪感を覚えたりするのですが、主人公の大人で生真面目な造形もあって、品よく楽しめます。ヒーローものとしての戦闘描写や、SFとファンタジーのハイブリッド物語としても高水準であり、TS物語としてひとつの理想的な作品であると思います。