≪原作≫≪こちらは未完。更新ストップ≫私の珊瑚と花紺青

まんごーぷりん(旧:まご)

プロローグ 珊瑚色の日々の中に、濃紺のリボン

 鏡の前で薄く微笑み、コーラルピンクのルージュを引く。これが、私の一日の始まりの合図。


 淡く明るい色が、よく似合う。だから今日は、桃色のブラウスの上に、オフホワイトのカーディガンを羽織る。チェック模様のスカートは、膝下丈。


 私は、私に似合う色をよく知っている。


 肩の少し下まで伸びた栗色の髪を、濃紺のリボン付きのヘアクリップで留める。――そして、何故か同級生の女のことを思い出すのだ。


「いいな、美雨みうは。可愛い色が似合って」


 いいな、と言われているのに、全く羨ましそうに聞こえなかったのは、当時の私の僻みだとか、被害妄想だとか、そういった感情を差し引いても、本当にそうだったのだと思う。――彼女は、いつも自信に溢れていたから。決して、他人を妬んだりしない子だったから。


 彼女は、紺色だとか、はっきりとした紅色だとか、そういった大人の色がよく似合った。私の中の彼女のイメージは、普段来ていたネイビーブルーのコートと、成人式の日に誰よりも輝いていた、赤の振袖姿で固定されている。


 私の中で彼女は、幸せの象徴だった。彼女より幸せな女性なんて、そうそう居ないだろうと思っていた。そして、これから先も、彼女は他の皆を置いて、どんどん先へ進んでいってしまうのだろうと、なんの疑いもなく感じていた。



 この日、我が校の屋上に佇み、今にも身を投げ出さんとする彼女の姿を夜闇の中に捉えるまでは。


 そして、こんなことを言うのは些か不謹慎なのだが――彼女、永野 春子はるこはやはり、紺青色の夜の空がよく似合った。

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