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不知火 和寿
第1話 木田の平凡で退屈な日常
目覚ましが怒号をあげる。
僕は、現実に引き戻さんとする悪の使者の声を無視し、布団をかぶりもう一度幸せな眠りの世界に戻ろうとする。
幸せな世界への道のりを歩き、あと一歩でその門戸を叩こうかというところでふと我に帰る。
「(そうだ。仕事に行かなければ。)」
僕は踵を返し、重い足を引きずりながら現実世界に帰っていく。
目を覚まし、時計を見ると8時を少し回ったところだった。
「まずい。遅刻だ。」
僕は急いでスーツに着替えて、家を出る。
「(本気で走れば遅刻は回避できるはず。)」
9月も終わりに差し掛かったというのに、なにを思い残すことがあるのか、今日も太陽は真夏並みに元気に輝いていた。
僕は大汗をかきながら、本気で最寄りの駅まで走って行った。
駅に着くと、あと一歩で改札に入れるというところで背が高く、褐色肌の外国人が困惑している姿を目にする。
彼は大きな上背を小さくしながら、片言の日本語で「渋谷駅」までの行き方を必死に聞いていた。
しかしながら通勤ラッシュの時間帯なので、誰も取り合おうともしない。
僕は、何人にも無視され肩を落とす彼を放っておくことが出来ず、渋谷までの行き方をつたない英語で説明した。
外国人は、クリッとした目を輝かせて嬉しそうに僕にハグをし、スキップをしながら切符売場へと向かっていった。
通勤ラッシュ時の人混みでハグをされたものだから、周りの視線が痛い。
僕は恥ずかしくなり、いそいそと改札を抜け、会社に向かう電車へと乗り込む。
会社の最寄り駅に着いたのは始業開始時刻の15分前だった。
「よし。何とか間に合いそうだ。」
僕は安堵しながら、会社への道を少し急ぎ足で歩いていく。
この横断歩道を渡れば、もう会社に着く。
危機は免れた。
余裕が出てきた僕は大きく伸びをして、あたりを何気なく見回す。
すると大きな荷物を持った腰が曲がり、白髪が少し薄くなってきているおばあさんが辛そうな顔で信号待ちをしているのが目に入る。
「大変そうですね。どこまで行くのですか?」
僕は考えるより先に、おばあさんに話かけていた。
「駅の反対側に友達がいるんだけどね、そちらまで行くんですよ。年をとると嫌だね。ちょっと歩いただけで息が切れちゃって。」
おばあさんは辛そうな顔を緩めて、僕に優しい笑顔で微笑みかける。
しばし、沈黙があり、僕は目の前のおばあさんと横断歩道の先の会社を交互に見やり、決断を下す。
「おばあさん、僕がその荷物持ちますよ。大変でしょうから。」
「いえいえ大丈夫ですよ。ご迷惑をおかけしてしまいますし。」
「平気ですよ。放っておけないですし。」
おばあさんは何度か断ったが、結局僕はおばあさんの荷物を持ち、おばあさんの友達の家までその荷物を運んでいた。
「あなた若いのに素晴らしい人だね。あなたみたいな親切な人なかなかいないですよ。本当にありがとうございました。」
腰の曲がったおばあさんは地面に頭が付くんじゃないかと思うほど深々とお辞儀をし僕らは別れた。
「ああ、やってしまった。」
時計を見ると時刻は9時10分。完全に遅刻だった。
急いで会社に向かう。
会社の3階にある僕の部署「システム開発部」はもう皆が仕事を始めていて慌ただしく動いていた。
「おはようございます。すいません。遅刻しました。」
僕は大声でそういうと同じ部署の同僚が一斉に僕の方を見る。
石井部長が僕をじっと見つめながら、無言で手招きをする。
石井部長は体育会系で昔ラグビーをやっていたなごりから、体格はがっちりしていて眼光が鋭かった。
「木田!遅刻何回目だ?小学生じゃねぇんだぞ?一度言ったら覚えろよ馬鹿野郎。」
石井部長は僕のお腹あたりを軽く小突く。
周りからは軽くに見えるかもしれないが、しかしその拳は重くしっかりとみぞおちを捕えていた。
部長は表情を崩さず、「次はねえからな。」と吐き捨て、目線をはずす。
僕はみぞおちあたりをさすりながら、自分のデスクへと向かう。
隣の席に座る五年先輩の繁水さんがニヤニヤしながら僕を見る。
繁水さんは大きなストライプの入ったネイビーのスーツに長髪という胡散臭い見た目で、空気を吐くごとく冗談を言う調子の良い先輩だった。
「木田ちゃーん、昨日は夜更かしして、シコっちゃったのかな?」
繁水さんは相変わらず軽い感じで、僕を茶化してくる。
男性社員はみな吹き出し、女性社員は軽蔑の目で僕を見てくる。
「そんなんじゃないです。ほんと勘弁してくださいよ繁水さん。」
僕は顔を真っ赤にしながら言う。
「木田ちゃん、早く女でも作って癒してもらえよー。」
僕はこれ以上繁水さんと話していても傷口が広がるだけだと思い無視をし、自席のPCに電源を入れる。
その後は遅刻した後悔と挽回しなければという焦燥感で、あっという間に午前中が終わった。
緊張感があった午前中を終えて僕は昼食を食べるために席を立つと、そこには同期入社で隣の部署の海東がいた。
「飯食い行こうぜー。」
「おう。」
海東とは部署が隣ということもあり、昼飯を共にすることが多かった。
マイペースで人の目を気にしない海東と人目ばかり気にしてしまう僕はチグハグのコンビだったが、何故か妙に気が合った。
僕らはいつも行く定食屋へと向かっていった。
外観はきたなく、味もまずまずだった。
だがしかし圧倒的に値段が安い店だったので、昼飯は大抵この店だった。
店内に入ろうとすると隣のイタリアンレストランに入る女性と目が合う。
その女性は顔立ちが整っていて、陶器のような艶やかな肌で、黒く長い髪はまるでシャンプーのCMに出てくるくらい綺麗だった。
僕は軽く会釈をするが、彼女は卑しいものでも見るかのような冷たい視線を送り店内へと消えていった。
「社内のアイドルの東条様には俺らみたいもんは石ころと同じ感覚なんだろーな。」
海東は気にも留めていない様子で、欠伸をしながらつぶやく。
「まあな。」
僕は彼女の残像残る店の扉を眺めながら惨めな気持ちになった。
店内に入ると、小汚く無愛想な店主が出迎える。
いつもと変わらず、僕らは日替わり定食を注文し、タバコに火をつける。
「しかしあの社内のアイドル東条さんと付き合えたら幸せだろーなー。」
海東は煙を吐き出す所作のひとつとしてそう理想を語る。
「まあ俺らみたいなんじゃまずお近づきになることさえ無理だよなあ。」
「こんなきたねぇ定食屋で飯食ってるようじゃ一生無理だわな。」
僕は悪口が聞こえていないかと心配になり、厨房を振り返るが、店主は特に気にする素振りも見せず作業を続けていた。
「東条さんって彼氏とかいるのかな?」
「まあ知らないけど、いるだろうな。引く手は数多だろうからな。」
「だよね。大学でミスコンとか出てたって噂だしね。」
「ああ、らしいな。そういや噂といえばだけど、東条さんと専務が愛人関係だって話も聞いたことあるわ。やっぱ金持ってるやつはあんな専務みたいなんでも愛人作れんのな。」
「おい、誰が聞いてるかわかんないんだからそんな大きな声で言うなよ、海東。あとこれも噂だけど俳優と付き合ってたとかも聞いたことあるな。」
「まあ、いずれにせよ、顔が良かったり、金持ってたりしなぁと付き合えやしねぇってことだな。俺らは妄想でオカズにして楽しむぐらいしかねぇってことだ。」
海東は表情を変えず、短くなったタバコを灰皿に押し付けて火を消す。
ほのかに灯った僕らの希望の光を消すかのように。
しばらくすると、くたびれた店主が料理を持ってくる。
これといって特徴のない安い定食屋のイメージを崩さないシンプルな生姜焼き定食。
僕らは作業としてそれを口に入れる。
これといった感嘆もなく、淡々と作業を終えて店を出る。
「なあ、木田。明日はこっちのイタリアンの店行ってみねぇか?」
「奇しくも俺も同じことを考えていたよ。」
無理だなんだと愚痴ってはみたもののやはりお近づきにはなりたい。
二人はお互いの明日の健闘を誓い合い、それぞれの部署へと別れる。
自席に戻り、午後の仕事をいつも通り淡々とこなしていく。
特にやりがいもないし、楽しくもない仕事を淡々とこなしていく。
「(彼女でも出来れば張り合いも出るんだろうけどなあ。)」
仕事がひと段落したところで、僕はコーヒーを入れに給湯室へと向かう。
そこには女性社員の一人がお茶を入れていた。
その女性は僕のニ個上の先輩の八嶋さんで背が低く、少し明るめの茶色い髪を後ろで縛っていて化粧は薄めなのに整った顔をしていた。
「おっす!今朝は大変だったね〜。」
「そうなんですよ。しかも繁水さんにもいじられるし最悪でしたよ。まあ寝坊した僕が悪いんですけどね。」
「まあ、そんな時もあるって!クヨクヨしてないで男ならシャキッとしなさい!」
そう言いながら八嶋さんは僕の背中をビシッと叩く。
「あ、ありがとうございます。シャキッとします。」
「よろしい。あたしもシャキッと仕事してくるかな。明日は遅刻するなよ〜。」
「さすがに二日連続ではしないですよ......」
八嶋さんは男勝りな性格だが、後輩思いで優しい一面もあるので、こういうときには必ず励ましてくれる。
社内でも密かにファンが多い存在だった。
僕は自分のデスクに戻り、また仕事を再開させる。
八嶋さんと話したからか自分の頬が緩んでいるのがわかる。
自分の頬を軽く叩き、そのことを周りに悟られないようにして、仕事へと意識を移らせる。
単純なもので先輩と軽く話しただけで午後の仕事は効率よく進んだ。
気付いたら18時の就業のチャイムが鳴っていた。
僕は軽く残業をして、周りに人が減ったことを確認してから、帰り支度に入った。
遅刻した分際で早く帰ったら、また何を言われるかわからない。
僕はそういうところで神経質だった。
PCの電源を切り、帰り支度をすると、なるだけ誰にも気付かれないように、まるで小動物が肉食獣の目を盗んで逃げるように、急ぎながらコソコソと会社を出た。
会社を出ると、僕の前を会社のアイドル東条さんと専務が一緒に歩いてる姿を見つける。
噂はどうやら本当だったようだ。
「やはり、金か…」
僕はそう呟きながら、専務たちを避けるように遠回りをして駅へと向かった。
なにをやっているんだろうか……
惨めな気持になりながら帰路に着く。
自宅の最寄り駅に着く頃、1通のラインが僕のもとに届く。
『今日暇?八べえで飲まない?』
ラインの相手は高校時代からの友達の相田からだった。
相田は僕と同様に何も取り柄がなく、女性からもモテない事で意気投合し、社会人になった今でも週1、2回は飲みに行って愚痴を言い合う仲だった。
『いいよ、19時くらいになら行けると思う。』
そう返信をすると僕は八べえに向かった。
「八べえ」というのは僕と相田がいつも飲みに行くお店でおばちゃんが1人でやっているお店だった。
いつもお客さんは常連のおじさん達だけで、混み合うこともなく、ほどよい雑音で居心地がよかった。
店に着くと、先に到着していた相田がお通しを食べながら待っていた。
「よお、早かったな。」
「ライン来た時にもう駅着いてたからな。」
「とりあえず注文するか。」
相田がおばちゃんを呼び、生ビールと串盛り、モツ煮込みと言ういつもと変わらないメニューを注文を済ませる。
「聞いてくれよ。この前話し合った作戦でラインしてみたんだが全然うまくいかなかったんよ。」
「ああ。例の好きな女の子を落とすための作戦か。どんなかんじだったんだ?」
「ほら。本来ならこっちが素っ気ないラインすることで相手がこっちを気になるってシナリオだったろ?それがむしろ逆効果で、前より余計素っ気ない返信になっちまったんだよ。」
「マヂかよ。なにがダメだったんだ・・・・・・」
「わかんねぇよ。もう無理なのかな。」
会話の間をだみ声のおばちゃんが横切る。
「はい。生ふたつね。料理はもうちょい待っててね。」
「はーい。とりあえず乾杯するか。」
「おう。」
乾杯をしてからも、相田の恋愛相談は止まらなかった。
「そもそも俺ら25だぜ?なんで彼女の1人も出来ないんだよ。」
「いやほんとだよな。僕と同い年の会社の同僚の女の子なんか恋人どころか専務と愛人関係だからな。」
「まぢかよ。やばいな。やっぱこれまで誰とも付き合ってないっていうのがよくないんだろうな。女からもそういうのバレてんだよ。だからとりあえず誰かと付き合って練習しとかないと。」
「まあな。でも好きでもない子と付き合うのは抵抗があるな。結局傷つけたりしてなんか相手に失礼な気がする。」
「わかる。それもわかるよ。だけどこのままじゃダメなんだよ。革命に犠牲はつきものなんだよ。変わろうぜ。」
「うーん。まあそうなのかなー。」
「そうだ。ナンパしに行こうぜ。渋谷とか原宿行ってさ。知ってる女ならあれだけど知らない子ならいいだろ?」
「まあどっちかといえばな。」
「よし決まりだ。今週末ナンパしに行こう。」
「うーん。僕は声かける自信ないけどなあ。」
「よーし、じゃあナンパの作戦立てるか。まずやっぱ面白い事を言って笑いを取って不信感を取り除くのがいいよな。」
そのあと僕らは3時間ちかく、今週末に取り行われるナンパの作戦会議をした。
気が付くと店内のTVがバラエティ番組から夜のニュースに変わり、常連客もすでに帰っていた。
「こんなもんかな。明日も仕事だしそろそろ帰るか。」
「そうだな。僕は今日遅刻したから明日は絶対仕事できないし。」
「なに、遅刻したの?夜更かししてシコってたろ?」
「会社の先輩にも同じこと言われたよ。けど違うからな。」
お勘定を支払って、僕らは八べえを出る。
「いやー有意義な会議だったな。マヂでイケるんじゃねぇか。」
「確かに。イケそうな気がしてきたわ。僕も今週末楽しみだわ。」
「よーし、あと細かいとこはラインで調整しよう。じゃあな。」
「おう、じゃーな。」
僕らはこれからそれぞれの戦地へ向かう兵士の如く、お互いを称え合い、それぞれの帰路へと別れる。
カバンからイヤホンを取り出し、音楽を聴きながら家へと向かう。
イヤホンから流れるオルタナティブロックのバンドを聞きながら、軽快に歩いていく。
国道を曲がり、奥に進んでいくと僕の住処までは一本道だった。
街灯が少なく、人気もない道だった。
後ろからなにか聞こえるが、音楽に夢中になっている僕はそのまま歩き続けていると、後ろから自転車がぶつかってくる。
「痛っ。あっ、すいません・・・・・・」
「おい!無視すんなよ!」
顔を見て僕は少し安堵する。高校のジャージにパーカーという出で立ちの自転車の主は僕の幼馴染の清水だった。
清水は黒髪ショートボブで目が細く、少しムッチリした体型で、いわゆる美少女という感じではなかったが、意外とファンが多かった。
しかし僕からすればただの幼馴染みで、口は悪いし、態度はデカく、可愛いなんて微塵も思ったことがなかった。
「いきなりぶつかってくるなよ。危ないだろ。」
「木田が無視してくるからだろ。てか酒くっさ。平日から飲んでんのかよ。」
「別にいいだろ。お前には関係ない。」
「どうせ、相田くんと愚痴大会でもしてたんだろ?愚痴なんか言ってたって行動しなきゃ彼女出来ないぞ。」
「わかってるよ。清水だっていま彼氏いないだろ。」
「いないけど、私はモテるから愚痴なんか言わない。先週だって会社の上司に告白されたし。」
「はいはい。自慢ですか。」
「あ。もしかして木田くん妬いてんのー?大丈夫だよ、ちゃんとフッたからさ。」
「妬いてねーし。べつに清水が誰と付き合おうとなんとも思わないわ。」
「うわー。それは普通に傷付く。ほんと木田ってデリカシーないね、最低。そりゃモテないわ。」
「なんだよ、そんなん関係ないだろ。」
「関係なくない!もういいわ、じゃーね。」
一方的に別れを告げて、清水は自転車で走り去って行った。
「なんなんだ、あいつ。」
僕はまたイヤホンを耳に入れ引き続き、オルタナティブロックを聞いて家に帰る。
部屋の電気をつけると今朝の僕の焦燥感が残像のように残っていた。
酔いが少し冷め、冷静になるとなんとも心が締め付けられるとともに緊張感が高まってきた。
「(明日は遅刻出来ない。早く寝ないと。)」
お風呂に入り、寝る支度を整えて、ベッドに潜り込もうとした折に、ふとなにかを忘れているような気がした。
「そうだ。明日は二週に一度の資材ゴミの日だ。」
急いで溜まった段ボールを紐でくくり玄関の近くに立てかける。
「よし、出来た。あ、お隣さんも忘れているかもな。一応張り紙でもしておくか。」
僕は眠い目をこすりながら、レポート用紙に「明日は資材ゴミの日です。木田」とマジックで書いて隣の部屋のドアにセロテープで貼りつける。
お隣さんは夜勤の仕事をしているようなので、帰ってきた時にきっと見てくれるだろう。そう思いながら僕は自分の部屋へと戻る。
やり残したことがなくなった僕は、ベッドへと倒れ込むように潜り込み、目を閉じる。
「(明日は遅刻せずに出社できますように。)」
僕は神社でお参りするかのように入念に念じ、頭の中を真っ白にした。
すぐに睡魔が襲ってきて、僕は深い眠りへといざなわれる。
しばらくすると、誰かが話しかけてくる。
ぼやけているが、それは天使のような姿をしていた。
よくサイゼリヤに飾ってある絵画の中にいるそういう類の欧風の天使だった。
周りは真っ白で、雲のようなものがあたり一面覆っていた。
「木田様。おめでとうございます。」
僕は目を擦りながら、その天使らしきものをゆっくりと観察する。
背丈は幼稚園児くらいで、ふわっとパーマがかかった髪にはっきりした蒼い目、上半身は裸で腰元に白い布のようなものを巻いていた。
そしてなにより背中には純白の羽が生えていて、腕には辞書くらい暑い本が抱えられていた。
辞書のような暑い本をめくりながら、天使は僕に話しかける。
「木田様のポイントが一定数たまりました。願いを1つ叶えることが出来ますが、いかがいたしますか?」
幼稚園児のような見た目にそぐわない丁寧な話し口調に、違和感を感じる。
だが僕は次第にこの状況に馴染んでいく。
自分でも不思議な状況だと感じるが、天使の話し口調や天界を思わせる周りの風景が、僕に奇妙な安心感を与えた。
「ポイントが溜まったというのはどういうことなの?」
僕は天使に質問をしていた。
「はい。人生で良い行いをすると天界でポイントを進呈させていただいておりまして、そのポイントが一定数溜まるとその方が望む願いを叶えてさしあげるというシステムになっております。」
「要するに僕はたくさん良い行いをしたから、願いを叶えてもらえるってこと?」
「概ねその通りです。」
「しかし僕はなにも良い行いをしたつもりはないんだけど、間違いではないの?」
「いえ、間違いございません。木田将吾様は本日0時17分に1万ポイントに到達しております。」
「そうなのかー。そんなに良い事した気はしないけどなあ。それで願いっていうのはなんでも叶えられるの?」
「なんでもというわけではございません。ポイントに応じて叶えられる願いは変わってきます。ですのでこのまま使わずに貯めておくことも可能です。」
「なんかTポイントカードみたいだな。そしたら例えばモテたいとかそんな願いも叶えられるの?」
「もちろん可能でございます。」
「じゃあモテたい!東条さんみたいな可愛い女の子と付き合いたい。」
僕は天使に大声で僕の願望を伝えていた。伝えた後に自分で言っていて恥ずかしくなる。
「承りました。それではその願い、ポイントを利用して叶えさせていただきます。」
天使の手にはいつの間にか、スティックのような金色で細い棒状のものが握られていた。
そのスティックを僕に振りかざすと、眩ゆい光に包まれ、僕は目を開けることが出来ない。
しかしその光は温かくどこか安心感を与えるような光だった。
光につつまれたまま僕は胎児になったかのような心地の良い気分に満たされていた。
僕はこのまま光に包まれていたい、そう思った矢先、その光は消えて完全なる真っ暗な世界に変わる。
続く
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