「境界線」はすべての人の「隣」にある、という考え方、不謹慎ではありますが、面白い視点だなあ、と感じました。なるほど、それを「前」にして悩む人物像は確かにイメージとしては一般的ですが、例えば、毎日仕事と書類と電話に追いまくられて「辞めてえ」「消えてえ」とぼやいている私の、そう、すぐ隣にもある、確かに。
――まだ若いんだし、そんなこと言わないで!オッサンだってバカにされたり人権無視されたり自分を騙したり良心を欺いたりしながら、でも意外と普通に生きてるんだ!
と言うのは簡単ですが(ホントは両手で肩を揺すって言いたい気分……)、生きる上での苦しみと言うのは、病理的な、身体的な、或いは経済的なものまで含めると、余人の想像を絶する領域があることは自明で、私としては、ただ、その苦しみや、痛みが、少しでも軽いものとなるよう、祈りたい、そんな気持ちです。
丁寧で、きれいな文章。
激情が垣間見える部分もありますが、全体に感情に対する抑制が利いてて、大人に読ませる、そんな小説だな、と感じました。