映画のような恋がしたい
コウと一緒に見た恋愛映画は、とてもよかった。
付き合い立ての二人が初々しいデートをしたり、辛いことがあっても二人で乗り越えたり、それでもっと仲が深まったり。
彼氏の男の子が死んじゃうのは悲しかったけど、それでも最後にはみんな幸せになってとても感動した。
アタシもこういう恋愛がしたい。素直にそう思ってしまういい映画だった。
おかげで映画が終わったあともボロボロに泣いてしまい、しばらくその場を動けなかった。
他の観客はすべて帰ってしまって、従業員が掃除をしながらアタシたちのことを邪魔そうに見ていたけど、コウは気にせずにずっとそばにいてくれた。
「相変わらずなじみは恋愛映画を見るとボロ泣きするよな」
そう笑いながら、アタシが泣きやむまでずっと側にいてくれた。
それが本当にうれしくて、最期までずっと側にいてくれた映画のシーンと重なって、さらに泣いてしまった。
ずっと最後まで寄り添ってくれた恋人の存在が愛しくて、それだけに悲しくて、涙が止まらなかった。
本当に迷惑をかけたと思う。
「なじみって意外と泣き虫だよな」
映画館を出てすぐにあるカフェで、コウがそういって笑った。
「だって……感動したんだもん。しょうがないじゃん」
「確かにおもしろかったよな。さすがは話題の映画だ」
そう大人ぶっていたけど、実際にはスタッフロールのあいだにこっそりと目元を拭っていたのを知っている。
人前で泣くなんて男として恥ずかしいと言っていたから、バレないようにしたんだろう。
コウに比べると、アタシはすぐに泣いてしまう。
そういえば昔からずっとそうだった気がする。
気持ちが高ぶるとすぐ涙があふれてきてしまうんだ。
うれしくても、悲しくても、ムカついても、すぐに感情があふれてくる。
そんなアタシをバカにすることなく、コウはいつも側にいてくれた。
だからアタシも最後には楽しかったねと笑うことができたんだ。
だけど……。
気がつくとまたアタシの目から涙がこぼれていた。
「どうした、思い出し泣きか? やっぱりなじみは泣き虫だな」
そうコウは笑ったけど、そうじゃなかった。
映画の二人がとても楽しそうだったから、アタシも同じことをしたかった。
ちょうど映画の舞台がここからでも行ける距離だったから、今度の日曜日はそこに行って映画と同じことをしよう。
昔ならきっとそう言えたはずだ。
でも今は「デートをしよう」と、たったそれだけのことすら、言い出すには理由が必要だった。
告白する前まではなにも考えずに毎日楽しかったのに、告白した今は苦しいことのほうが多い。
甘い恋愛映画を見たあとだからなおさらだった。
アタシもあんな恋がしたかった。
最後に死んじゃうのだけはイヤだけど、それ以外なら、あんなことをコウとしたいと思っていた。
いっぱいデートをして、いっぱい色んなところに行って、たくさん遊んで、たくさん思い出を作って、ケンカした後にもっと仲良くなって、それでいい雰囲気になって……ちょっと恥ずかしいシーンもあったけど……、でも、とても幸せなことだと思った。
映画を見ているあいだはずっとそんな妄想をしていた。
でも、今はもうそれを口にすることはできない。
本当は大好きなのに、大好きだといえない。
そういってしまったら、アタシがコウを大好きだと認めることになってしまう。
実際そうなんだからしょうがないんだけど、それだと結婚できない。
そう「約束」したんだから。
ふとスマホのイヤホンに差し込まれた猫が目に入った。
落ちないよう必死にスマホの縁につかまっている。
どうしてそんなに必死になっているんだろうって、コウと一緒に笑いあった。
そのときにふと思った。
思ってしまった。
なんでアタシはこんなに必死になってるんだろう。
そう思ってしまったんだ。
大好きなのに、大好きと言えない。
どうしてそんなガマンをしないといけないんだろう。
もしも。
あり得ないはずなのに、もしも、と考えてしまう。
もしも過去に戻れたなら、アタシはコウに告白するだろうか。
何度生まれ変わっても必ずコウを好きになるだろうけど、こんな関係になると知っていたら、なにも言えないかもしれない。
告白する前に戻れたら、こんなに苦しい思いをしなくてもいいのかな。たくさん思い出も作れたのかな……。
ずっと悩んでいた。
でもきっと、本当はアタシの中で答えは決まっていた。
本当にそれでいいのか自分に自信がもてなかったんだ。
でも、今日のことでわかってしまった。
アタシはコウが好きだ。
世界で一番大好きだ。
コウと一緒にいるだけで楽しくて、あれもしたいこれもしたいとわがままになってしまう。
たくさんのことを一緒にしたい。
もっともっと一緒に過ごしたい。
そんな相手はコウだけなんだ。
だから、なにもできない今の関係が苦しくて仕方なかった。
だから決めた。
「ねえコウ、今週の日曜日にデートしない?」
アタシの突然の提案に、コウは目を丸くして驚いた。
それはそうだろう。
だって今までそういう話題は避けてきた。
もし誘うにしても、さっきみたいに勝負に勝ったからとか、そういう理由が必要だった。
「俺とデートしたいなんて、そんなに俺のことが好きなのか?」
「そうだって言ったらどうする?」
挑むように言い返すと、コウは言葉を詰まらせ、それから不適な笑みに変わった。
「なるほど、そこで勝負を決めようってわけだな。いいだろう。場所は……」
「ちょうど映画にも出てきた遊園地がここから近いよね。だからそこにしようよ」
「なるほど。わかった。日曜だな。それにしても、なじみと遊園地に行くのも久しぶりだな」
「そういえばそうかも。楽しみだね」
それからはコウとその遊園地について色々と調べたりしていた。
ここが楽しそうとか、これには絶対乗りたいねとか、でも待ち時間を調べてみるとなんだかすごいことになっていて、いくらなんでも並びすぎでしょーと二人で笑ってしまったりとか。
ああ、やっぱり楽しいな。
デートの計画を立てるだけでこんなにも楽しいと思えるなんて、やっぱりアタシはこの人が大好きなんだ。
こんなに好きだって気づいてしまったら、もうガマンなんてできるわけがない。
だから、デートをしよう。
映画みたいにいっぱい遊んで、いっぱい甘えて、いっぱい恋人みたいなことをしよう。
もしかしたらいいムードとかになったりして、コウがちょっとエッチなことをしようとしてくるかもしれないけど……。
でも、それでもいい。
だってアタシたちは恋人なんだから。
たくさん恋人らしいことをして。
一日で一生分の思い出を作って。
最後にアタシの素直で正直な思いを告白して。
それで終わりにしよう。
アタシたちは友達に戻るんだ。
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