このチャンス利用しない手はない
来週は小テストだという先生の話を聞いて、休み時間になってもクラス中がざわめいていた。
「もうそんな時期かー」
「ヤバい、アタシぜんぜん勉強してない」
「毎月テストがあるのダルいよな」
他のクラスメイトと同じように、なじみもまた涙目で俺の席へと泣きついてくる。
「お願いコウ、勉強教えて~」
涙を浮かべながら上目遣いで懇願してくるなじみ。
控えめにいってかわいすぎる。
彼女からこんなこと言われて断れる男なんているんだろうか。いるわけないんだよなあ。
「しょうがないなあ。いつものことだしな」
「さっすがコウは頼りになる!」
「お、惚れ直したか?」
「直した直した、すっごく惚れ直した。コウ大好き!」
「おいおい、そんなに本当のことをいわれるとさすがに照れちゃうじゃないか」
「でも、本当のことなんだから仕方なくない?」
「確かにそうだな。なじみはかわいいだけじゃなく頭もいいな」
「ええー、そんな、かわいいとか、頭いいとか、本当のこといわないでよー」
「でもかわいい彼女にウソなんてつけるわけないだろ」
「それもそっかー。えへへ、なんか照れちゃうなー」
「あんたらなに授業が終わって早速イチャイチャしてるのよ」
志瑞(しみず)が呆れ顔で近づいてきた。
なじみが首を傾げる。
「アタシたちイチャイチャなんてしてた?」
「別にいつも通りだったよな?」
「うん。これくらい普通だと思うけど」
「ああ、うん、そうね……。あんたらはいつでもそうだったわね……」
志瑞がうんざり顔つきになる。
どうしてそんな甘ったるいものを無理矢理食べさせられたような顔になるのか俺には理解できない……。
「まあいいわ。そんなことより、どうせなじみはまた勉強してないんでしょ。今日の放課後はみんなで勉強会しない?」
「いいね、そうしようぜ!」
そういってきたのは佐東だ。
こいつはいっつも成績が下の方だからな。
「俺一人じゃ勉強がはかどらないんだよな」
「あんたは教えてもらうのが目的でしょ」
「困ったときはお互い様っていうだろ」
「うんうん、いい言葉だよねえ」
なじみも深くうなずいている。
お互い様っていうか、なじみはともかく佐東に助けてもらった記憶はないんだがな。
「勉強会は賛成だ。俺も勉強しないとヤバいしな」
ここのところなじみとプロポーズ合戦をしていたせいで勉強がおろそかになっていた。
英語の授業では、毎月最後の授業にその月でやったことをまとめたテストが行われる。
授業内容の復習が目的のテストのため、基本的に授業でやった内容と教科書からしか出ない。満点を取って当たり前のテストだ。
だからこそこれを落とすと成績が下がりやすい。
俺たちはお互いに家の方針で成績を落とすわけにはいかなかった。
うちの親父は息子の成績が低いなんて社長として恥ずかしいと思ってるし、なじみの母親は成績が悪いなんて長澤家として恥ずかしいと思っている。
それでも比較的自由に生活できているのは、ちゃんと成績上位を維持しているからだ。
毎日ちゃんと授業を受けている俺はともかく、寝てばかりのなじみも意外と成績はいい。
なじみは勉強が嫌いだからしてないだけで、ちゃんとすればちゃんといい成績をとれるからな。
かわいいだけでなく頭までいいとか天は二物を与えないんじゃなかったのかな?
それはともかく、成績を落とすと家庭教師をつけられたり、塾に行かされたりと自由な時間がなくなってしまう。
それでなくても遊ぶ時間が減るのはイヤなのに、二人で会える時間が減るなんて耐えられない。
だからここは素直にちゃんと勉強しよう、と俺たちは誓い合った。
「がんばろうね、コウ」
なじみがにっこりと笑顔になる。
いつも通りに見えるが、誰よりもなじみの笑顔をそばで見てきた俺だからわかる。
あれは作った笑みだ。
内心ではきっと同じことを考えている。
だから俺も笑顔で答えた。
「ああ、一緒にがんばろう」
笑顔を浮かべあいながら、俺たちは内心でほくそ笑んでいた。
勉強もする。プロポーズもさせる。
そのふたつが狙えるこのチャンス、利用しない手はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます