いつものところで待ち合わせ
夕食には俺とマイの好物がたくさん並んでいた。
いったいどうしたんだろう。今日ってなにかの記念日だっけ?
なんだかわからないけど、好きなものばかりなのはうれしいのでたくさん食べてしまった。
マイはずっと黙ったまま目も合わせてくれなかったけど……。
食べ終わった後に母さんが、週末は一緒にお買い物デートしましょうとかいってきたので、そっちは丁重にお断りしておいた。
いや確かに母さんのことは好きだけどさ、高校生にもなって母親と一緒に買い物とか恥ずかしすぎだろ。
ちなみに母さんは結構ショックだったらしく、しばらく固まって動けなくなっていた。
そんなに行きたかったのか……。ちょっと悪いことしたかな……。
いやでも母親とデートとか常識的に考えてやっぱ無理だろ……。
かわりにマイと行ってきてくれよ。
そのあいだに俺はなじみと……デートに………………いけたらいいなあ……。
◇
次の日の朝、いつもの待ち合わせ場所でなじみを待っていた。
だけど、さすがに今までと同じ気持ちではいられなかった。
どうしても昨日のことを思い出してしまう。
キスする寸前までいったのに結局俺たちはなにもできなかった。
マイにもヘタレといわれたが、そういわれるのも仕方がないと自分でも思う。
確かに俺にはできない理由があった。でも、事情を知らないなじみからしたら関係のないことだ。
キスをしようとしておきながら、最後の最後でなにもできなかった男。
それが昨日の俺だ。
さすがのなじみも、そんな俺に愛想を尽かして嫌いになってしまったんじゃないだろうか。
そう思うだけで目の前が暗くなる。
……いやでも、なじみだってしてほしそうにしてたし、なんならしてほしいみたいなことも言ってきたし。
あそこまで誘っておきながら、どうして最後の最後でじらすんだよ。
まるで俺とのことは遊びみたいな……。
やっぱり、本当は俺のことなんか……。
……いやいや、まてまて。落ち着け。
思考がネガティブになってるぞ。
なじみは俺のことが好きだ。お互い告白したんだし、あの時のなじみに嘘はなかった。そこは自信を持っていえる。
だいたい、俺たちはまだ付き合って一ヶ月も経ってないんだ。
なのにもうキスなんていくらなんでも早すぎるよな。まだ高校生なんだし。はやいはやい。これがふつう。
なお他の奴らのことは知らない。
俺たちには俺たちのペースがあるんだからな。
ヘタレとかいうな。
とにかくそういう訳なんだから、必要以上に卑屈になることはない。
昨日のことは、これからなじみに聞けばいいんだ。
……なんだけど、そのなじみが来ない。
スマホで時間を確認すると、待ち合わせの時間はとっくに過ぎていた。
遅れるなら必ず何らかの連絡があるはずなんだけど……。
これはもしかして……やっぱり避けられてる……?
再び心配になりはじめたとき、スマホになじみからのメッセージが届いた。
急いで確認する。
『お、おはよう』
なぜかメッセージで朝の挨拶を送ってきた。
これってやっぱり、顔も見たくないくらい怒ってるってことだよな……!?
震える手を落ち着かせながら、なんとか返信する。
『おはよう。えっと、どうしてメッセージなんだ? もしかして調子が悪いとか?』
『ちょっとコウと顔を合わせづらくって……』
がーん!
やっぱり俺に愛想を尽かしてしまったのか……。
言い訳はあるけど、そんなの男らしくないよな。
ここは正直に謝るしかない!
『昨日はごめん! 俺のこと嫌いになったよな?』
返信は即座に来た。
『そんなことない! コウのことはずっと大好きだよ! こっちこそ謝らないといけないし』
『なんでなじみが謝るんだ? 悪いのは俺のほうだろ』
『だって、きっとコウのこと傷つけたと思うから……』
傷つけた?
いったいなんのこと……。
考えて、すぐに気がついた。
俺たちは似たもの同士だ。
俺が悩んでいることを、なじみも同じように悩んでいるんじゃないだろうか。
寸前でヘタれてしまった俺に愛想を尽かしたんじゃないかと心配してるように、なじみもまた俺に嫌われてしまったと心配して……。
「………………」
途中まで書いたメッセージを消すと、俺はスマホをしまった。
かわりに、いつもなじみが歩いてくる道へと目を向ける。
電信柱の後ろに隠れる女の子の姿が見つかった。
体の一部しか見えていなかったけど、この俺が見間違えるわけない。
「おはようなじみ」
声をかけると、隠れていた体がビクッと震える。
やがて恐る恐る電信柱の陰から姿を現して近づいてきた。
「あの……おはよう、コウ……」
いつも笑顔のなじみが、今日だけは落ち込んだ表情を浮かべている。
「なんで隠れてたんだ?」
たずねると、なじみは不安そうにカバンを胸の前でぎゅっと抱きかかえた。
「だって……昨日のことで、きっと怒ってるだろうなって……」
泣き出しそうなほど声が震えている。
ああ、やっぱりそうなんだ。
なじみも俺と同じように、昨日のことを気にしていたんだな。
安堵のような親近感のような、不思議な感情を俺は覚えた。
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