告白
学校の屋上には鍵がかかってるんだが、鍵穴に鍵が指しっぱなしだったのを見つけてからは、こっそりと複製して俺たちだけで利用している。
ドアノブに触れると、鍵は開いていた。
扉を開けると同時に風が吹き込んでくる。
なじみは屋上の縁から校庭を見下ろしていたが、俺の気配を感じたのか少しだけぎこちない動作で振り返る。
「ここに来るのも久しぶりだね」
「そうだな」
俺たちだけの秘密の場所、といえば聞こえはいいんだが、屋上に来たところで特にすることもないからな。
そのかわり、他の人に聞かれたくない話をするにはちょうどいい。
俺たちの会話は最初の一言で途切れていた。
いつも明るいなじみにしては珍しい。
大事な話、なんてもったいぶった言い方で呼び出したから緊張してるのかもな。
そんななじみの様子を見ていたら俺まで緊張してきた。
告白する、なんて意気込んだはいいが、いざとなるとやっぱり緊張する。
作戦は単純だ。
親父は難しいと思っているのかもしれないが、要は告白してオーケーをもらえればいいだけだ。
俺が告白すればなじみも断らないだろう、と思えるくらいには自惚れてもいいはずだ。
ていうかなじみも俺のこと好きだよな。
あれで実は嫌いだったとかだったら人間不信になるぞ。
その後で事情を説明し、うちへ嫁入りに来てもらう。
なじみも家の束縛にはうんざりしているから、断ることはないだろう。
家を出てうちに来るなんていったら、むしろ喜んでオーケーしそうだ。
「それで、大事な話って、なにかな」
なじみが固い声でたずねる。
「ああ、そのことなんだが……」
言葉が続かない。
喉がカラカラになっている。
緊張して心臓が破裂しそうだった。
ええい、いまさら怖じ気付くなんて男らしくない。
何度か深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせる。
それでも心音は鳴り止まない。
パニックで頭の中が真っ白になり、あんなに家で練習してきたはずの言葉がなにひとつ思い出せなかった。
それでも俺は口を開く。
吐き気がするくらいの緊張も、死にそうなくらいの焦燥も、なじみと会えなくなる絶望に比べれば全然なんてことないだろう。
なじみと離れたくない。
その一心が俺にわずかな勇気をくれた。
「俺はなじみが好きだ。たぶん、ずっと前から。結婚しよう」
勢いで言い切った。
驚いたなじみが顔を隠すように両手を当てて押し黙る。
小さな嗚咽が聞こえたのであわてて駆け寄ると、手のひらの裏で涙を流していた。
「ど、どうしたんだ。……もしかして、そんなに嫌だったか?」
なじみが勢いよく首を振る。
「ううん、違うの。運命ってやっぱりあるんだなって思って」
「運命? なんのことだ?」
えへへ、となじみが涙目でほほえんだ。
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