第104話 ごめんなさい、結局こうなります。そういえば今日は猫の日らしいですね。
主に僕が血の涙を流して時間が流れていった飲み会は、いよいよ終わりの時間となった。幹事代理の男子が「じゃあひとり三千円でよろでーす」と封筒を回し始めた。
……ああ、そっか……。僕はふと隣で楽しそうに古瀬さんと会話している綾のことをチラッと見て、財布の中身を確認する。千円札は……あ、よかった六枚ある。
正面から流れてきた封筒に二人分のお金を突っ込み、ひとつ飛ばして古瀬さんに渡す。
「あれ? いいんですか? よっくん」
それを見た綾は申し訳なさそうにして慌てて財布を開こうとしている。
「いいよいいよ、高校生に三千円は大金だし、本当は今日来るはずでもなかったしだし。……ただ飲み会に出たことは他言無用で」
もしバレたら綾のお父さんにシメられるから。絶対。
「わかってますってよっくん」
「お、上川太っ腹じゃーん、奢ってあげるんだ」
「……まあ、高校生に出させるわけにも」
「端から見れば保護者だな」
……またそうやってナイーブなところ突く……。ほらー、綾の表情も右半分は固まっているよ?
「そ、そういえば最後まで星置来なかったなー、どうしたんだろうなーあいつ」
ここらへんの事情をほじくり返されるのも僕は好きじゃないので、あからさまにだけど話を逸らさせてもらった。
「確かに、結局最後まで来なかったし、連絡もなかったなー。本当にナンパがうまくいったとか?」
「それはそれであいつが調子に乗りそうでいやだけど……」
「まあ、その代わりに幼馴染ちゃんと古瀬さんの彼氏と面白い話できたしな、満足満足、じゃあ俺は会計行ってるから、撤収しといてー」
そう言い幹事代理は封筒を手にしてテーブルを離れる。その間に僕らはお店を出て、真っ暗になった八王子の路上で幹事を待つ。
「うちらは二次会行こうと思うけど、上川たちはどうする?」
普段、僕らとは別グループの女子が、固まっている僕ら四人にそう提案する。
「あー、僕は綾を家まで送ってこうかと思うからパス」
「わ、私もちょっと酔いが回ってきちゃっていて……今回は遠慮しておきます」
よく見れば古瀬さんも結構顔を赤くなっている。なんなら少し島松によりかかっている。
「ああー、古瀬さんは別の二次会が始まりそうな勢いだからなんかごめんね誘っちゃって」
……気持ちはわかる。そういう想像に至るプロセスは理解できる。でも、今古瀬さんを抱き留めている男は生粋のゲームオタクだ。彼女が想像している二次会は起こりえない。
「……というかよっくん、さりげなく私を家に送る前提で話を進めてますね?」
微笑ましい目で古瀬さんと島松を見ていると、ひょいひょいと僕のシャツの袖を掴んでは綾がニンマリとした顔をこちらに向ける。
「……え? だってもう十時だし、帰る、よね……?」
「今お母さんにラインしました。泊まっていいそうですよ? よっくん」
いつになったら僕は一人で寝られるのだろうか。え、この悩みって大学生が持つものなの? 子供を持つ親の悩みとかではなくて?
「うん、上川も無理そうだね、わかった」
……察しがよくて助かります。
車通りのまだまだ激しい大通り沿い、僕らと同じように飲み会上がりの人達もちらほらと通り過ぎては「二軒目どこ行きますー?」「俺雰囲気いい店知ってんだよー」といった会話を大きな声でしていく。
歩いている方向、完全雰囲気がいいというより騒がしいほうですけど、という突っ込みは心にしまっておいた。
すると、突然僕のスマホが着信を知らせる。急な出来事だったので、手にしていたスマホを落としそうになるも、なんとか無事に電話の相手の名前を見る。
「っと──もしもし、お前今どこにいるんだ?」
「……はぁ……
電話先からは、少し息が切れている星置の声がする。
「って、がっつり大学の近くじゃねえかよ。どうした、何かあったのか?」
「……追われてるんだよ、奴らに」
聞こえてきた言葉は、まったくもって予想できなかったもの。
「……どうやら俺も監視されてたみたいだな、人通りの少ない場所で襲われたわ、今なんとかどっかの駅まで逃げ込めないかやってる──っ、やばっ、また来たから一旦切るわっ」
「おっ、おい星置! ちょっまてっ!」
「医療法人の美深会、そこが篠路のばあちゃんが入院している病院の運営だ、頼む、そこだけでもいいから調べてくれっ、そんじゃ!」
土壇場に星置が叫んだ名前に、僕はとてつもなく嫌な予感が走った。
星置が監視されているなら、僕も……? そして、たった今。
「僕と関係が深いこと」を知られている栗山さんが、その名字の男と一緒にいる。
……通話が終了した瞬間、僕は血相を変えて栗山さんに電話をかけた。
頼む……偶然の一致であってくれ……!
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