第81話 単位がかかると学生は獣のように情報を求める。
六月末。雨が降りしきるなか、僕と星置は件のフリーマーケットに向かうため大学最寄りの駅の改札前で待ち合わせをしていた。のだけれど。
「ふふふん~♪」
……僕が家を出る瞬間にタイミング悪く栗山さんがやって来てしまい「それならわたしも大学行くー」とついてきてしまった。時間も時間だったし、だめって言ってもついて来るに決まっているので早々に僕は諦めた。まあ、今日はそんなに危険ではないだろうし、別にいいだろう。
それよりも。
栗山さんと星置を会わせるのが嫌なんだよなあ……。また発狂しなければいいけれど。
待ち合わせの時間を少し過ぎた時間に、
「悪い悪い、遅れた……ってん?」
小走りでオレンジボーイはオレンジ色のパーカーを着こんで僕のいるところへとやって来た。
「……上川、なんでこの人もいるの?」
すぐに星置は栗山さんの存在に気がついた。……そりゃそうだよね。僕の腕持ってニコニコしながら鼻歌歌っているもんね栗山さん。気づかないほうがどうかしているよね。
「……一言で言うなら、ついて来ちゃった」
「ついて来ちゃった。ついて来ちゃった。ついて来ちゃっただと?」
何故三回も繰り返した。
「どこから?」
……げ。まずい、墓穴を掘った。
「え、えーっと……京八から?」
とりあえず京王八王子駅からついて来たということにして、穏便にことを済ませようと思ったけど。
「はれ? わたし上川くんの家から一緒だったよね?」
思ったけどそうはいかなかったご様子です。無自覚テロリスト再び降臨ですね。
「……とりあえず、ご紹介していただきましょうか、三人の女をたぶらかす見た目草食系男子の上川君?」
ははは。なんか、ここ最近こいつに言い訳とか説明とかばっかりしている気がするなあ。なんでだろうなあ。
「……彼女は、前もチラッと話したように学科の先輩の栗山由芽さん。同じ授業取って仲良くなった」
「ほほう、栗山さんねえ。あ、どうも、上川の友達の、星置って言います。よろしくお願いします」
「えへへー、よろしくねー星置くん」
「でだ。……まさかとは思うが栗山さんもお前の家に出入りしているんじゃなかろうな?」
テンションの落差やばくないですか?
「……ハハハ、マサカ、ソンナコトナイヨ」
頼む、栗山さんよ察してくれ、言わずとも僕が思っていることに気づいてくれ! もしくはこの話が聞こえていないというオチでもいいから!
「もうー、上川くんったら嘘はだめだよー。今週も何回か泊まったよ? わたし」
はい、終了のお知らせです。期待した僕が馬鹿でした。
「……とりあえず、今度学食奢りな。そのときに詳しい事情聴取と行こうか。場合によっちゃあただじゃおかないからな?」
僕にしか聞こえないくらいの大きさで彼は呟き、
「じゃあ、まあ栗山さんも一緒に、フリーマーケット行きますか」
僕らは駅を出て直結している大学のキャンパス内、傘を差して歩き始めた。
フリーマーケットは文学部の授業が行われている3号館の一階の教室何ヶ所かで行われていた。どうやら学部ごとに教室をわけているみたいだ。文学部はあそこ、商学部はあそこ、経済学部はみたいな感じに。
他学部の教科書を見ても仕方ないし、そもそも栗山さんは今回僕らがここに来た理由を知らないので、あまり不自然な行動はできない。とりあえず文学部と表記されている小教室に入った。
まずまずの賑わいを見せていて、まあ実際前期のテスト前だし単位が欲しい学生は血眼になって手段を選ばずやってくるからね。
僕らの他にも何名か学生が来ていて、そのうち一人はスタッフらしき人に話を聞いていた。
……まあ、そんなに怪しい点はないけどなあ、ぱっと見。
机に並んでいるほぼ新品に近いような教科書に、過去のテストの問題をまとめた冊子、そういうものに限らず、文学部楽単・落単情報と書かれた小冊子なども売られていた。
ちなみに、楽単とは楽に単位を取得できる授業のことで、落単はその対義語。
「……俺、普通に欲しいものあるんだけど、買っていいか?」
普段勉強に不真面目な彼は、目の前にぶら下がった単位というパンに食いついたようで、ポケットにしまっている財布の中身を確認していた。
……調査に来たんだよね? 僕ら。前途多難だなあ。
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