第79話 何をするにしてもタイミングが悪い人って、ほんと天才的だよね。
「でも……団体名がわからないんじゃネットであたりをつけることもできないし……まさかこのチラシ見せて回って学生に聞いて回るのか?」
「……それはやめておいたほうがいいと思う。上川」
かなりマジっぽく止める意思を星置は見せた。
「そのチラシの団体、噂によるとかなり危ないところらしくて……。誰もちゃんとしたソースの情報は持っていないんだけど、うちの学生を捕まえては強引に引き込んで色々とやらせているって話はある。だからこそ心配しているんだけど。もしそのチラシを不特定多数のやつに見せたら、万が一にも団体の人間に当たって危険にさらされるかもしれない」
……おう、かなりの事案じゃないか、これ。僕の予感当たったよ。え? 僕が対応すべきこと? これ。素直にそういうの専門の人に任せるべきなのでは……?
僕は渋い顔をして星置を見ると、彼も申し訳なさそうに俯きながらも、
「上川が言いたいことはわかる。だから、全部解決してくれとは言わない。……せめて、大学の学生相談室が相手をしてくれる程度の情報を揃えたいんだ。そうすれば、危ないことはしないで済む」
「そ、それなら協力はするけど……」
誰一人としてきちんとした情報源の情報を持っていないっていうのも不気味だ。
「ということは、僕らの目指す着地点としては、篠路君がその例の危ない団体に入っているかどうかの事実確認に加え、その団体が危ないものであることを証明したうえで、大学にこの事案を引き継ぐってことでいいの?」
「ああ、それでいい」
……なんか僕が今まで聞いてきた相談のなかで一番危ない事案かもしれないよ。大丈夫かな……でも、受けると決めたものを覆すのもだし……やれるだけやるか。
「けど、僕もただの素人擬きだから、危ないって思ったらすぐに中止するからね。そうなったらまあ、大学に限らずどっか他を探してみるんだね」
「問題ない」
「それなら……もうこのチラシに書いてある六月末の教科書のフリーマーケットってやつに行って調べてみるのが一番手っ取り早いんじゃないの? さすがに大学が許可印押しているイベントで大っぴらにまずいことやるとは思えないし」
「そうだな、じゃあ、そこから手始めに調査してみるか」
「……ん、りょうかい」
と、いった感じに星置の相談は終わった。綾が来るまでにまだ時間もあるということで、まあ男が集まったらゲームだよねということになり、家にある据え置き機のゲームで僕と星置は休日の余暇を共に過ごすことになった。普段はここにガチゲーマーの島松がいてどうやって二人で島松を倒すか、ということに焦点が集まることがほとんどだったけど、今日に関しては僕と星置しかいないので、純粋に二人でやり合うような形でゲームを楽しんだ。
時間はあっという間に過ぎていき、気づけば夕方四時。まだ綾は来ない時間だけど、そろそろお開きにしたほうがいいかなと思い「悪いけどそろそろ用事あるから……」と星置にそれとなく帰って欲しいことを伝える。彼も「おっけー、今日はありがと」と言い家を出ようとしたのだけど。
ピンポーン。
ん……? 宅配便か? でも、何も届く心当たりはないぞ?
「よっくんー、ちょっと早いですけど来ちゃいましたー」
インターホンが鳴って数秒後、そんな声と共に鍵が開けられる音が響いた。
……僕はギギギと星置から視線を逸らす。気持ち悪いくらい美しい笑顔をしたチェリーズ同盟は僕の肩をトントンと叩き、
「ん? どういうことかな? 上川。お前、他にも女がいたのか?」
と、ドスの効いたことを口にする。
綾、タイミング悪すぎだって……。ああでもタイミングが悪いのは綾の専売特許か……。
「あれ? よっくん、お客さん来ているんですか……?」
制服姿の綾の目と、僕の肩に手を置いたままの星置の目が合う。
「しかもJKだとおおおお⁉ お前、とうとう女子高生にまで手を出しやがったのかこのヤリチンめっ! 失望したぞ上川あ!」
「ちょっ、落ち着けチェリーズ、今ちゃんと説明するから、ちょっと待てっ!」
首を絞めるな首を! お前の後輩助ける前に僕がオダブツになるからほんとストップ!
「うっさい、既にお前と俺の外交チャンネルは断絶した! 交渉の余地なしだよ!」
じゃあなんで僕にあんな重たい相談したんだよこいつは、ほんと自分に都合がいい奴だなおい! 少しは後輩思いのいいところあるじゃんとか思った僕が馬鹿だったよ!
「あ、あの……よっくん? この人は……?」
「しかもあだ名で呼ばせているのかあああ⁉ もう許さん、お前も島松も絶対許さん! 見てろ、いまにお前らよりいい女と結婚して、結婚式に招待してやるからなこんちくしょう!」
……外交途絶しているのに結婚式は呼んでくれるのね、と思いつつ、僕は星置の首絞めから逃れようとした。
なんとか説明ができたのは、それから三十分後のことだった。
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