第27話 タイトル、何も考えていないように見えて一応考えてはいますからね(棒)。
僕は、プレゼントの入った白い袋をお腹に抱えて座り込んでいるサンタクロースに声を掛けた。しかし、返事はない。
「栗山さん、起きて、起きてくださいっ、こんなところで寝たら真面目に危ないんでっ」
この間のお酒のときのように、僕は彼女の肩を強く揺らす。
「あ、あれぇ……? わ、わたし寝ちゃってた……?」
今日は素直に起きてくれた。おもむろに目を開いた栗山さんは、ゆっくりキョロキョロとあたりを見渡してそう言う。
「寝ちゃってたじゃないですよ、何しているんですかこんなところで」
「えへへ……もしかしたら上川くん、クリスマスに一人でさみしいかなあって思って、あとサンタさんの格好したら喜んでくれるかなあって思って……バイト終わりに来ちゃった」
頬を掻くいつもの癖。でも、言葉に歯切れの良さは、感じられない。
「よかった……最初に見つけてくれたのが、上川くんで……知らない男の人に、ひどいことされる前で、よかった……」
そして、その言葉を最後に、再び栗山さんは目を閉じてしまった。
「ちょっ、栗山さん? 栗山さん?」
僕は慌てて彼女の両頬に手を当てる。
「あっつ!」
一体何時間ここにいたんだ栗山さんはっ! あわてんぼうにもほどがあるぞサンタクロース!
僕は何かに弾かれたように急いで鍵を開け、眠ってしまった栗山さんを抱えて部屋のベッドに寝かせ、毛布をかける。
エアコンのリモコンのボタンを操作しつつ、押し入れにある体温計を探し当てる。
未だ外と大差ない寒さでため息が出てしまうが、そんなことをしている暇はない。
「栗山さん……ちょっと脇、失礼しますよ……?」
毛布を少しめくって、襟もとから彼女の服の中に体温計を握った右手を忍び込ませる。なんとか脇にたどりつき、そこに細い体温計を当てる。
部屋のなかでよく見れば一目瞭然だった。栗山さんの顔は、何かに当てられたかのように真っ赤なのだから。
一分ほどして、ピピッと音が鳴り響く。僕は彼女の体に手が当たらないよう注意して体温計を抜いて、画面の表示を見る。
「七度四分……」
栗山さんの平熱を知らないから何とも言えないけど、微熱ではある。もしかすれば高熱かもしれない?
……救急車……呼ぶほどではないのか? さっきまで起きてはいたし、僕が体温計差したときもちょっと寝返りを打った。おかげで栗山さんの脇腹に手が当たってしまったけども。……かなり汗をかいているのもわかってしまったけど。起きるまで様子見……かな。
僕は押し入れにある救急箱から冷えピタを一枚と、冷凍庫にしまっている保冷剤を二個持ち出す。
栗山さんの顔をタオルで拭いてあげてから、まずおでこに冷えピタを貼る。あまり効果はないらしいけどとりあえず。次に脇に保冷剤を挟もうとしたのだけれど、これがなかなかに大変だった。体に触れるわけにもいかないし、まさか見るわけにもいかないからノールックでやらないといけないけど、氷が当たると栗山さんが時折「ん……」と反応してしまってさらに大変。
なんとか両方の脇に保冷剤を挟んだ。これで熱は下がってくれる……よな? まさか寝ている人に解熱剤飲ませるわけにはいかないし、飲めない薬を飲ませて本当に救急車ごとにするわけにはいかないし。
さっき顔を拭いたにも関わらずもう額には汗がうかんでいる。きっと体はもっと汗をかいているのだろうけど、さすがにそこまでする度胸はない。もう僕のシーツはいくらでも湿らせていいから何事もなく目覚めてくれと、僕は願うことしかできなかった。
不意に、彼女が抱えていたサンタクロースの袋の中身に視線が移る。慌てていたので中に入っていたものが零れてしまっていた。
……ファムマのレジ袋に、プレゼント用にラッピングされた箱がひとつ。
レジ袋のなかには、栗山さんが買ってきたのであろうファムチキが三つ、それとペットボトルのコーラが二本入っていた。
……クリスマスっぽいことしようとしていたのかな……。
次に、緑色の紙包装に赤いリボンで包まれたプレゼントらしきものに興味が行く。リボンに挟み込むように「上川くんに」と紙が挟まれているので、きっと僕に対するものなのだろうと思う。
勝手にあけてしまっていいのだろうか……。でも、見つけてしまったし、今まで苦労をかけられたこともありこれくらいはいいだろうと思い、僕は包装を外し箱を開ける。
そのなかには。
「これ……手編み?」
水色の毛糸で編まれた、マフラーが入っていたんだ。いつも、僕がマフラーをしていないことに気づいて……?
「……こんなことになるなら、自分に使えよ……」
メリークリスマスと可愛らしい文字で書かれたカードを見ながら、僕はそう呟いた。
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