ラブコメっぽいラブコメってこれでいいですか?
白石 幸知
1冊目
第1話 急ぎでなければ別にお急ぎ便を使うことはないと思う。でも選んじゃうけど。
「あ、あのね
百分間の三限の講義が終わり、教室を出ようとした僕は通路を挟んで隣に座っていた一人の女子に呼び止められた。
「
彼女は、一年生のときから語学が同じクラスで面識がある人だ。人当たりもよく、いつも笑顔を絶やさないような、そんな子。
「そ、その……友達から聞いたんだけど、上川君って……色々な人の相談受けて、解決させてきたんだよ、ね……? れ、恋愛でも……」
白のダッフルコートを着込んだ古瀬さんは、モジモジと膝元で手遊びをしつつ僕にそう切り出す。
ああ、その話か。と思うと同時に、僕は体にハンマーを叩きつけられるような衝撃を受けた。
まず前者について説明しようと思う。
どういうわけか僕は高校生のころから何かと悩み事を相談されては、それに応えることが多かった。部活で上手くいかない、友達と気まずくなった、今度の体育祭が嫌で嫌で仕方ないとか、本当に色々。
話を聞いて解決に動いているうちに、僕、上川善人は悩みを聞いてくれる「いいひと」だという評判が広まっていった。それが広まっていくと月に二・三件ご相談を承ることが習慣化していき、大学生になった今に至るというわけ。
なるほど、じゃあいつも通りにお悩みを聞けばいいじゃないかとなるかもしれないがそうはいかない。
後者の理由が問題なんだ。いや、ね。
……まさか自分が好きな人から恋愛相談受けるなんて思わないじゃん……。ええ? これなんて漫画ですか……? 使い古された展開にもほどがあると思うんだけどなあ……誰だよ、こんなテンプレ的関係性のはじまり考えた奴。
「まあ、うん。基本なんでも聞くけど……ここじゃあれだし、場所、変えよっか?」
しかし、今こうして僕に相談しに来ている古瀬さんもそれなりに困って僕のもとに来たわけで、無下にするわけにもいかない。四限は空きコマだから時間はあるし、どこか静かな場所で話を聞いてあげたほうが、いいのかな……。
好きな人の恋愛相談を受けるとか、滅茶苦茶嫌だけど。
「あ、ありがとう。上川君」
結果。最後まで話を聞いて、なんやかんや協力することになってしまいました。
「はぁ……そんなのってありなのかなあ……」
彼女の話を聞き終え、五限の授業も終わった僕は一人暮らししているアパートに帰るとそのままベッドにダイブした。
いやね。片想いが破れるのは別にいいんですよ。(良くはないけど)
その方法。彼氏いました。好きな人いました。今は恋愛する気じゃないです。とかならまだよかった。(良くはないけど)
……恋愛相談受けて告白する前に振られるってそんなオチある?
「うう。寒いな……暖房まだ効かないのか……」
帰るなりすぐにエアコンのスイッチを入れたはずなのに、未だ部屋は冷蔵庫のなかのように寒い。
「もういいや。とりあえず気晴らしにアニメでも見て……前から気になっていたあのフィギュア、買っちゃおう。……でないと身がもたない」
そうだ。こういうときは開き直りが肝心。あまりにもずるずると引きずると古瀬さんの相談にも響いてしまう。彼女への片想いはもう忘れよう。それに限る。きっと縁がなかったんだ。そうに違いない。
僕は現実から逃避するためにスマホでポチポチっと欲しいものリストにあったフィギュアをカートに入れ、即購入。来ていたコートをハンガーにかけてテレビのスイッチを入れる。ハードディスクに撮りためていた日常系秋アニメの四話を再生し、二次元の世界へと入りこんだ。
翌日が土曜日で休みということもあり、僕は夜通し溜めていたアニメを消化し続けた。なかなか大学が忙しくてアニメを見る時間が確保できなかったから、こういう機会に進めるに限る。僕が二次元から夢の世界へこんにちはをしたのは、土曜日の朝七時のことだった。
ピンポーン。
「ん……?」
次に目が覚めたのは、夕方のこと。
「こんばんわー、宅配便でーす」
僕はその呼び出し音で起き上がり、部屋着のまま玄関を開ける。
「上川さん宛てに、ですね、ハンコお願いしまーす」
ハンコを押して荷物を受け取って、宅配便のお兄さんを見送ったところまではよかった。
「……えっと、君は……?」
閉まっていないドアの向こう側には、会ったことのない見知らぬ美少女が立っていた。
「えへへっ。こんばんは。
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