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あれは間違いなく幽霊だ。
脚がない。腕がない。人の形をした白い影が誰もいなくなった夜の街の広場を歩いているのをこの窓から見たのだ。
日記によると、初めて幽霊を見たのは半年ほど前だった。まだ半袖を着ていて、体の具合がこんなにも悪くなるとは夢にも思わなかった。毎日この広場に面した窓際のベットの上で横になることが一日の大半の私の楽しみとなっていた。
そして近いうちに私もこうなるのだと幽霊を見て思い描いていた。
今日も幽霊が来るのを待っている。
まだ外は真っ暗で外灯の光が怪しげに辺りを照らしている。どこか遠くからは郵便屋さんのバイクの音が聞こえる。
ぐちゃぐちゃになった毛布を引っ張って顔が隠れるギリギリまで引き寄せた。
幽霊も寒さを感じるのだろうか。
白い影だから何も分からない。どんな顔をしていて、どんな服を着ているのかも。
何も分からないのになぜかとても親近感があった。
もし彼が生きている人間だったら、分かりあえる気がした。
そういえば、なぜ「彼」だって思ったかっていうと、とても背が高いのと、黒い手帳とペンを持っているからだ。
目線を窓に向けると気づいたらいつもの様にバス停のベンチに座っていた。
ほら、手帳とペン。
何を書いているのか分からないけど、一回ペンを持つとするすると止まらない。そこだけ時間の流れがゆっくりに感じる。水中の中にいるような、そんな不思議な気分になる。
しばらくするとどこかを眺めて、そういう状態になるとずっと動かずにいて、また何かを思い出したようにペンを動かす。私も彼が見ているであろうものを一緒に眺めた。そんな具合だった。
もしかしたら目線は前じゃなくて下を見ているのかもしれない。たいして何も見ていなくてその次に手帳に書くことを考えているのかも。
結局今日も何も分からず終いのまま幽霊は消えて行った。
明日もまたここにきてくれることを願った。
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