Ⅴ
フィガロ大尉が戻ってきた。隊長を殺したテロリスト共の仇をとったのだろう。
そろそろ、僕も動き始めなければいけないか……僕はその場にしゃがんで隊長のポケットの中に手を入れる。そうして中から出てきたのは、先程の公用車のキーである。
「意見を具申します」
僕がそう声に出すと、フィガロ大尉は少し驚いたような表情をした。
「発言を許可します」
「われわれはこのまま護衛対象者のポレール第二王女をお連れして王都を脱出し、地方へと転進することが最も確実な護衛作戦になると考えます」
「ほう……」
少し感心したような表情を見せるフィガロ大尉。もう、僕もこのままじゃいられない。もう隊長はいないのだ。
「そうしたらアルノース、どこへ向かうのですか? 王女をお守りするのに適切な場所はどこにあるのでしょう」
「僕の故郷であるアルノース領がよろしいかと。アルノースは適度に田舎ですし正直かなり影というか印象が薄い地域ですので」
「ほほう、よし、そうしよう。取り敢えずアルノース、先を急がねばいけません。詳しいことはアルノース、あなたに任せます。私はアルノースとかあのあたりに行ったことがないので」
何やらとても重要なことを任されてしまった。でももう後戻りはできない。絶対にやり切るしかないんだ。
後ろから男の人の声で『がんばれ、シャルル。応援してるぞ』という声が聞こえてきたような気がした。
「ここだ」
フィガロ大尉はある部屋の前で立ち止まった。そしてノックをする。普通はここでまだ見ぬポレール王女の入室の許可を得なければならないのだろうが、フィガロ大尉は「失礼」とだけ言ってそのまま部屋のドアを開けた。
すると中では1人のメイドがポレール王女らしきドレスを身につけた少女と同僚であろうメイドにナイフを向けていたのだ。仮にも王女に仕えるメイドなのだからその辺りの身辺調査をやらなかったのかと王宮側の管理体制に疑問符がつくが、まあ仕方ない。フィガロ大尉はすぐさま王女とそのテロリストメイドの間に割り込んで魔法で盾を展開した。
それを見た僕はすぐに杖を取り出して『子守歌』を発動させようとしたのだが、ここでこの部屋の中の違和感に気がついた。なんか変な臭いがする。甘ったるい……お香のような、前にどこかで嗅いだ。
僕はあることを思い出して杖を下げ、代わりに拳銃を取り出した。あまり扱いは得意ではないけども、
だが、僕は躊躇わずに拳銃の引き金を引いてしまった。理由は自分でもよく分からない。ただただ、気がついたら引き金を引いてしまっていて、そして発射された9x19mmパラベラム弾はそのメイドの頭を奇跡的に貫通して血の花を舞わせながら頭部に風穴を開けた。
僕は今、ハイになっているのだろうか。僕の普段の倫理観では殺人なんてなどとおおよそ軍人らしからぬことを言っているが、今日はまったく鳴りを潜めている。
拳銃をホルスターにしまうと、僕はそのまま脳天に風穴をぶちあけられたメイドのすぐそばに寄った。隊長の時は先を急いでいてちゃんと看取ることはできなかったし、看取っていたら年取って死んだ後に隊長にどつかれるような気がしたが、せめて自分で殺した人間くらい自分で片付けなきゃ。
「有害人物の死亡を確認。さあ、先を急ぎましょう王女殿下」
すると王女殿下は少し不安そうな表情を見せた。
「名も知らない
「はい、王都クラーナ区憲兵所属、シャルル=アルノース、階級は少尉でございます」
「おや、あのアルノース家とは……そうですか、わかりました。ところでアルノース、何かプランが既に固まっているのではなくて?」
全てポレール王女殿下には見透かされているようだった。
「はい、この後偽装した区憲兵の公用車で王宮を脱出して、それから王都を脱出、北へと向かってアルノース領の本官の実家へとご案内いたします。田舎の領地ですのでおそらく追手が来る可能性は低いかと。また近年創立した空軍の基地もございまして、わざわざ反乱分子が軍の基地があって田舎のアルノース領に貴重な戦力を割くとは思えませんので」
僕の少し内容が纏まっていない説明を聞いてポレール王女殿下は少し混乱したような表情を見せた。
「貴方の説明はわかりにくいけど大筋は理解しました。それで行きましょう。あと自己紹介ですが私はご存知の通り第二王女のポレールですわ、ここに控えているメイドがアリアンヌですわ」
「アリアンヌです。私にできることでしたらなんなりとお申し付けください」
アリアンヌと名乗るメイドが礼をした。
「じゃあ、行きましょうか」
そう言って、王女殿下は手を叩いた。
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