#4.7 Dimanche après-midi
Ⅶ
結局、昼ご飯は食べれなかった。午前中のパン屋強盗未遂事件があまりにも酷すぎたというのもあるが、普通に後処理が忙しかったのだ。ひたすら色んなところに同じ内容の連絡と報告を繰り返す典型的な縦割り行政。要するに、食べそびれたということになる。
パレードは恙無く進行してゆく。全国の部隊が王都に集まるからパレードも長時間に亘る。延々と隊列が続くのだが集まった人々は飽きもせずに隊列を眺めている。ほんっっとに、飽きないらしい。まぁ、戦車とか装甲自走砲とか数はあるけどあまり表に出したことのない兵器が今回出ているからかな? 僕も自走ポンポン砲なんて初めて見た。
パン屋の強盗事件以来、大した犯罪というのは……痴漢が2〜3件あったくらいで大きな事件は僕たちの周りではない。
だが、かと言って警戒できないわけではない。どうもパレードとは関係のないところで、地下鉄の中で通り魔事件があったらしくどことなく周囲の憲兵や警官たちは僕たちも含めてピリピリした雰囲気である。
少なくとも、パレード見物に来ている市民にこのことは知らされていない。知らせる手段もない。ただ、少しピリピリしている雰囲気に何かを察したような者がいないわけでもない。
突然肌で感じる強大な魔力。僕は魔力を感じた、僕の左側に目を凝らす。市民の一部も気づいたようで、そっちを見ている者がいる。
この魔力……さっきの女の? この決して逆らえないような感覚、ヒエラルキーの頂点を感じるこの魔力。さっき、パン屋での事件の時よりも強い!
だが、その魔力はすぐに消えてしまった。
「ねえ、今のって……」
先輩ももちろん気づいたようだ。
「さっき人質にされてた女性のものですね……先輩は直接は会ってませんでしたね。僕が対応していたので」
「ん? パン屋から出たところを見たわ。
チラッとだけど凄いね。その女、何するつもりかしらね。ちょっと探して連れてきてよ」
先輩に連れてこいと言われ、僕は人混みの中を進んでいく。さっき感じた強大な魔力の記憶を元に、その女性を探すが全く見当たらない。ふと先輩の方を見ると、先輩も双眼鏡まで使って怪しい女を探している。先輩が僕の方を見た。どうやら先輩の方を見ている僕を見つけたのか、双眼鏡を下ろして『どこにもいない』と口の動きで伝えてきた。確かに魔力は感じたのに……
僕が元の場所へと戻ると、先輩と隊長が話していた。
「おう、シャルル、さっきのパン屋の騒ぎの女が変なんだって?」
隊長が尋ねてくる。
「変というよりか、あれだけの魔力を出しておいてどこにもいないんです。これはもう怪しさしかないですよ。一回捕まえて詳しく話を聞くしかないと思います」
「でも元はと言えばシャルルが道を開けたらしいな」
「それとこれとは話が別です。僕1人ではどう考えてもあの女性と対峙できません。退くしか選択肢はありませんでした」
「まぁ……それも間違いではないか。まさかその女が蜃気楼みたいに消えるとは普通考えないしな」
「その女、実は蜃気楼だったっていうオチとか?」
先輩がかなり物騒なことを言い出した。もしそれが本当なら、女性が蜃気楼だったなら、簡単に国くらい滅びてしまう……まるでペストか何かのようなものにもなりかねない重大なことだ。
「そんなことが本当に起こったら、最悪の事態ですよ。もし蜃気楼がその辺をうろついてたら、そっちの対処をしている間に別の蜃気楼や本人は別の悪さができるということになりますからね」
「きゃっっっ‼︎」
「わっっっっ‼︎」
通りに猛烈な風が吹く。人々は俯いて、必死に風に耐える。帽子などの飛びやすいものは風に飛ばされてどこか入ってしまい。通りには何処かから飛んできた帽子や新聞紙などが散乱している。
パレードの隊列も風で一瞬止まり、崩れるがこっちはやはりプロであるからか、大きく崩れることはなく、すぐに列を整えて行進を再開した。
誰も風には注意しない。大通りではよくある話だ。帽子が飛ばされた者は帽子が飛んでった方へと向かって帽子を探して、拾う。そんな、猛烈な風が吹いた時に当たり前に行う行動を行っていた。
「やっぱり蜃気楼みたいな女ですね」
「女はそれくらいがちょっぴりミステリアスな雰囲気が出ていいのよ」
先輩が緊張感のないことを目を擦りながら言う。
「ダメですよ、目を擦っちゃ。目の中にバイ菌が入ってしまいます」
「ぃやだ」
冬の王都は風が強い。まだ乾燥していないだけましだが、乾燥していたら肌荒れが大変だろう。そして、光の屈折が起こらないと蜃気楼もできない。
「マジであの魔力はなんなんだ。俺も軍に入って結構経つけど聞いたことがない。この風を起こしたのがあの女だったら……」
「隊長はそういえばどうしてその女のことを知っているんですか? 僕、隊長に話していませんよね?」
「昼休みのミーティングで聞いた。相当恐ろしい、危険な女だったということしか知らない。あと、ほんのちょっぴり感じた魔力? ぐらいだ」
「実際じぶn『きャアアアアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎』何なんですか今度は?」
突然響いた断末魔のような悲鳴。僕は悲鳴が聞こえた方を向く。
「ねえ、シャル君、悲鳴の方向ってさっきシャル君が女の魔力を追って行った先じゃない?」
すでに近くをパトロールしていた警官が悲鳴の起こった場所まで人混みをかき分けながら進んでいく。
「そうですね。隊長、我々はどうしましょうか?」
「俺たちはこのまま、向こうはあの警官たちに任せよう。他に何かあったときにすぐに対処できるようにしよう」
「了解です」
「「きゃあああああああああああ‼︎」」
再び悲鳴、さっきのよりも大きい。
僕たちは「今度は何だ、なんなんだ」と少し呆れたように悲鳴の方を向く。
すると、通りと血だらけの人々が紅い円を2つ描いていた。
「何ですか? あれ?」
「け、憲兵さん、憲兵さんっ‼︎」
晴れの日せておめかしをして街に出てきたであろう中年女性がその高そうな上着の裾に血が飛び散ったような痕をつけている。
「どうしました? まず落ち着きましょう? 深呼吸をして、それから向こうで何が起きたか話してください」
先輩がその女性の背中に手を添えて対応する。
「あ、あ、あ、ち、ち、近くにいた、おばさんが……突然唸り声を上げて……その前の若い子の首を締め上げたから、みんな叫び出したら……警官が来て、警官が来たら警官の身体が……はれ、破裂しちゃって」
「は、破裂?」
その女性の口から出た衝撃的な単語を先輩は一瞬理解できなかったのか、その女性に聞き返した。
「は、破裂。身体がパァーンって、バラバラ……もうバラバラなんてレベルじゃないよね」
「シャル君、取り敢えず向こう行って! 状況確認! 今のこの人の説明聞いてたでしょ、他にも警官やら憲兵……特に
その女性の説明を聞いた先輩が僕に指示を出す。隊長は僕への指示を聞いて隊長自身の判断で何処かへと走っていった。
「は、はい!」
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