Charles’s Wain and Charles in the Welkin

鳳至旅人

#0 Prologue

La joie venait toujours après la peine.

「ねぇ、シャルル、『La joie venait toujours après la peine.』ってことわざ知ってる?」

 先輩-あの頃はジャンヌ姉と呼んでいたけど、ウチの領地と先輩の実家の領地の境目にある森で迷った時に先輩が教えてくれた。

 あの時、確かジャンヌ姉が「ねぇシャルル、森にきのこを採りに行こう!」って言い出したのだ。ただきのこは見つからず、森の中で迷子になってしまったのだ。実際のところ、森のきのこは『きのこ組合』が採っていってしまうから森になくても仕方ないのだが。

「なあに? ジャンヌ姉」

「ふっふー、シャルルはまだまだお子様ねえー」

 そりゃそうだろう。当日僕はまだ8歳、先輩は10歳だった。子供の2歳の差というのはとても大きい。

「なあに? ジャンヌ姉」

 僕がもう一度先輩に尋ねる。

「ふっふー、わたしのことを『お姉さま』って呼んでくれれば教えてあげる」

 ジャンヌ姉は調子に乗った。今になって考えればただの文章である。比喩でも何でもない、それこそ『Je m’appelle Charles Alnorce』とか『J’ai une petit sœur. Elle s’appelle Laëtitia.』なんてレベルの文章で、ただの格言なだけなのだが、道に迷って恐怖を感じていた当時の僕にはそんな簡単な文章の意味さえ分からなかったのだ。

「いやです」

「じゃあ教えてあげなーい」

「えー」

「『教えて下さい、お姉さま』って言わないのが悪いんだからねー」

 このままでは埒があかないと感じた僕はジャンヌ姉のことを『お姉さま』と呼ぶという屈辱的なことをしたのだ。実際薄暗い森の中はとても怖かった。それこそ悪の魔女が現れてもおかしくないような薄暗さだった。

「教えて下さい、お姉さま」

「ふっふー、それはね、……」

 その言葉は今でも僕の心に深く刻まれている。そして、辛い時には常に僕はその言葉を思い出している。

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