妻がランダでオナニーしてました

ブリモヤシ

第1話 シヴァ神が、寿命の尽きた世界を破壊する

 まったく、こんなことを小説のネタにしていいのか分からないが、日本に帰ってからずっと、この経験を誰かに言ってしまいたいという思いにとらわれている。だから、この際思い切って書くことに決めた。


 それは、観光ポスターにつられて妻と二人で行った、バリ島での出来事だった。

 妻は、小さい広告会社のデザイナーをやっている。ちょうど三年前、彼女は仕事上のゴタゴタがあって、精神的にひどく滅入っていたのだが、支えになってやるべき私は自分の仕事が忙しく、ろくに話を聞いてやりもしなかった。というのは半分口実で、本当は、妻をかまうのに多少飽きていた。妻は、結構な美人だった。しかも、親友の恋人を横取りするという無理をしてまで私たちは結婚した。が、毎日顔を突き合わせているうちに情熱は冷めた。色々な言い方はあるが、一言で言うなら、飽きてしまったんだと思う。

 妻の気分転換という名目で、多くの日本人たちと一緒に飛行機に詰め込まれ、私たちはバリ島へ到着した。

 夜だった。

 熱帯の花の執拗な香りが闇を埋めつくしていた。30分もしないうちに甘い香りに酔って、頭がぼうっとしてくるのが分かった。

 妻はデザイナーという職業柄か、バリ独特の装飾品や、木彫りの像などに興味を持ち、次の日から、その種類の民芸品店を精力的に回った。どの店にも、異国の宗教が持つ神秘的な雰囲気があったが、それとはうらはらに、現地人の店員は値段交渉だけに熱心だった。

 大通りからはずれた路地で、他に面白い店はないかと探していると、5、6才の幼女がバリの言葉で話しかけて来た。どうやら客引きらしい。それがどういう種類の店かはわからないが、子供が手伝っているくらいだからいかがわしい店ではないだろう、と思い、私たちは行ってみることにした。

 幼女に連れられて生ごみが浮いた溝を渡り、民家と民家の間を通り抜ける。左右の家の開け放した窓から薄暗い中が見える。団扇をつかいながら、何をするでもなく、鋭い目付きでこちらをじっと見ている人たちがいる。

 少女は一軒の家の前で立ち止まり、手招きした。

 それはまったく普通の家だった。軒先に売り物を並べてさえいない。中を覗くが、薄暗くてよく分からない。わずかな不安がよぎったが、同時に、好奇心もわいてきた。私たちは中に入った。

 期待に反して中は普通のみやげもの屋だった。他の店と同じ。雑然としていて、相変わらず花の匂いが粘りつくように立ちこめている。

 私たちは落胆と同時にほっとして、売っている物をゆっくり見て回った。妻は一つのお面に興味を示した。ギョロっと見開いた目、むき出した出っ歯、その下からベロンと出た長い舌。

 なんとも奇怪な面だ。

 妻はそれを買った。「何のお面か?」と店番の老婆に聞くと、ニヤリと笑って「ランダ」と答えた。巻き舌のラの発音が、店を出てからも私の耳に残った。

 その日の夜中、妻は、高熱を出した。汗びっしょりになって、うんうん唸った。アスピリンを飲ませたが効かない。

 そのうち、妙なことに気がついた。妻が掛けている毛布の、お腹のあたりに妙なふくらみができている。そのふくらみが、もぞもぞ動いているのだ。毛布を剥ぎとってみると、昼間買ったランダの面があった。妻はそれを両手でにぎり、開き加減にした両足の間、つまり股間の例のあたりに、お面の縁を擦りつけていたのだった。私はお面を取り上げようとしたが、恐ろしい力で握っている。あきらめて、毛布をもとに戻し、冷蔵庫の氷で妻の額を冷やした。

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